障害者の雇用「代行ビジネス」は是か非か、専門家たちが出した結論は? 「働く場を提供」でも「社員という実感はない」
ある程度の規模の企業には、従業員の一定割合(現在2.5%)以上、障害者を雇うことが義務付けられている。障害者が働けるよう配慮や工夫が必要になるため、負担に感じる企業も多い。そこで、貸農園などの働く場を企業に提供して雇用を事実上代行するビジネスが近年、増えている。「働く場を創出している」との主張の一方、「お金を払って雇用率を買うようなものだ」と批判もあり、物議を醸すこのビジネス。二つの有識者グループが1年間、是非を議論した。多くの人がモヤモヤしていた問題だが、専門家たちが出した結論は―。(共同通信=市川亨) 「障害者は喜んで農園で働いている」はずが…国会がNGを出した障害者雇用〝代行〟ビジネス 大手有名企業を含め800社が利用
▽「勤務時間の半分は休憩」で月給10万円 千葉県に住む20代の須川明さんと40代の稲田真由さん(いずれも仮名)は、それぞれ2022年と23年まで、同県柏市にある同じ農園で働いていた。広い敷地にビニールハウスが並び、葉もの野菜などを栽培する。だが、2人を雇用する会社は別々で、農業とも全く関係ない。須川さんはスポーツ用品の企業、稲田さんは広告代理店だ。 勤務時間の半分ほどは休憩で、実労働は1日約3時間。2人は「休憩が長すぎだった」と苦笑するが、手取りで月約10万円の給料が支払われていた。農園では同じように、さまざまな企業に雇用された障害者が70~80人ほどいたという。 農業を事業にしているわけではないので、2人が作る野菜が市場で販売されることはなかった。雇用元の企業に無料で送ったり、自分たちで持ち帰ったりしていたという。「雇用元の企業の社員であるという実感はあったか」と尋ねると、2人は「なかった」と口をそろえた。
▽「三方よし」とPR、有名企業も利用 ちょっと変わったこの農園、どういうことになっているのか。カギは2人とも障害があるという点だ。須川さんには軽い知的障害、稲田さんには精神障害がある。雇用元の企業は2人を障害者の雇用数に算入、法定率を達成できるというわけだ。 農園を運営するのは、障害者雇用支援を掲げる「エスプールプラス」(東京)という会社。企業に障害者を1人40万~70万円ほどで紹介し、初期費用や年間利用料としてそれぞれ数百万円を受け取る。エス社はそれで利益を上げ、利用企業はそれほど手間をかけずに障害者の法定雇用率を達成。障害者は福祉作業所をはるかに上回る給料を軽い農作業で受け取れる。 エス社は2010年からこの事業を始め、「三方よし」の仕組みとしてPR。急成長し現在、全国で50カ所近い農園を運営する。複数の大手有名企業を含め約600社が利用し、働く障害者は約3700人いる。似たような形で貸農園を運営する事業者は、ほかにも10数法人あるとみられる。