フォンテインズD.C.が語るスマッシング・パンプキンズやKornからの影響――最新作「Romance」インタビュー
カーリー:これまでのアルバムでのグリアンのボーカルは、ある種の型にはまったイメージを持たれていたところがあったかもしれない。でも、グリアンはこれまでも常に素晴らしいシンガーだったし、ただ、僕たちの音楽が、シンガーとしての彼の、ある特化したスタイルを際立たせていたという側面もあったと思う。だけど今回のアルバムでは、僕たちの音楽性の変化によって、彼のボーカル・スタイルも新たな境地を開拓できたというか、幅広い表現力が引き出されたところもあったのかもしれないね。
「Romance」は現代社会を寓話のように表現したようなアルバム
――オープニングの「Romance」には、「maybe romance is place(きっとロマンスこそが居場所)」という印象的なフレーズがあります。フォンテインズD.C.の作品では、これまで常に「場所」がテーマとして描かれていて、そこにはアイルランド人としてのアイデンティティーをめぐる問題がさまざまな形で反映されてきました。ただ今作では、そうしたテーマ、いわば自分たちを縛り縛り付けてきた「場所」から解き放たれたような、そんな印象を受けます。
トム:うん、このアルバムはおそらく、より内省的なアルバムだと思う。心の奥底にある静かな感情を表現したかった。それに、僕たちはもう長い間アイルランドを離れていて、だからアイルランドの視点で書くのは後ろめたいというか、それって借り物の感情で歌うような不自然な感じがしたんだ。
カーリー:(今作は)もっとフィクションに近いと思う。「Romance(恋愛、性愛)」とは、架空の物語を紡ぎ出すための場所――というか。現代の出来事をそのまま描くんじゃなくて、現代社会を寓話のように表現したような、そんなアルバムなんだ。
――抽象的な言い方になりますが、今作を通じて“新しい居場所”を見つけた、みたいな感覚もあったのかな?と。
カーリー:それは人生全般について? とても重い質問だな(笑)。でも、どんなアーティストにとっても同じだと思うんだ。自分の人生を濃縮して、そのエッセンスだけを抽出するようなプロセスを経て、最後に残るのは、その軌跡をたどるような作品なんだと思う。それってまるで、自分自身のための奇妙なセラピーというかさ。創造的な活動を通して、何かに没頭することで、自分自身を深く探求する。そしてその結果として、作品という形でそれを世に出す。と同時に、そうやって出来上がった作品と向き合うことで、「自分ってこんな人間なんだ」って改めて気付かされるんだよ。