考察『光る君へ』22話 周明(松下洸平)登場!大陸の波打ち寄せる越前での運命的な出会いからの衝撃「日本語喋れるんかい!!」
手蹟は特別な意味を持っていた
突然の通事殺人事件、そして朱の身柄確保。 その事件を報せる書がまひろの手蹟だと、表書の「左府殿(左大臣殿)」だけでもわかる道長。思わず瞬きの回数が多くなってしまう。 道長がまひろの手蹟……彼女の筆跡だけをしっかり覚えているように見えるが、平安時代、貴族は公的・私的に手紙をやり取りした相手の筆跡を覚えることは当たり前だったのだ。 『源氏物語』では妻・女三の宮のもとに男から届いた、不義密通を示す手紙を光源氏が発見し、不倫相手は自分がよく知る若者──柏木だと気づく場面がある。 「紛るべき方なく、その人の手なりけりと見たまひつ」 (紛れもなく、あの人の筆跡だとご覧になった) 電話もない、写真もない時代。離れた場所に住む人との繋がりは手紙に頼るしかなかった。そこに記された字は、現代の我々が思うよりも遥かに、特別な意味を持っていただろう。 道長がまひろの字に毎回ときめく姿は、いかにも平安貴族らしいと思う。
待望の鈍色!
最愛の母・貴子(板谷由夏)の危篤を聞き、伊周(三浦翔平)が密かに都に戻ってきてしまった。前回21話で引き離されたのが5月。貴子が危篤となったのは10月。 公任が「大宰府に向かっているはずの」と言ったが、前回のレビューで触れた通り伊周自身も病となり、しばらく播磨国の明石に留まっていた。それから西に向かう途中で母危篤の報を聞いたのだ。見る影もなく零落し、母の死に目にも会えず涙する横顔は、このままでは終わらない何かを感じさせる。 そして、道長が中宮・定子(高畑充希)の御在所へ弔問に訪れる場面で、思わず声が出た。 こんな言い方は甚だ不謹慎であるのは承知の上で喜んでしまう、平安時代ファンとして待望の服喪の色、鈍色(にびいろ)! 御簾の縁、中宮の周りの調度品も全て黒、その室礼(しつらい)。 清少納言(ファーストサマーウイカ)が黒い几帳をそっと上げて、お腹が大きいので少し苦しそうに座る中宮・定子が見える。こんな時になんだが、なんとなまめかしい美しさ……。 『源氏物語』では鈍色は数多くの場面で出てくるのだ。悲しみの色であるとともに、故人との関係の深さを物語ったり、それを纏う人の気品、美しさまで伝える重要な色である。 大河ドラマでどうしても見たかったので嬉しいと、テレビの前で震えていた。 兼家(段田安則)の亡くなった後の服喪期間中にこれがなかったのは、この中宮・定子の場面を際立せるためのドラマ的演出かもしれない。実際、定子の美しさといい、とても強い印象だもの。 そして定子から告げられる懐妊。一条帝(塩野瑛久)がその報告を聞いてなお、自分を抑えられるか。たったひとりの、最愛の妻がようやく身籠った、初めての子である。 内裏に呼び戻すか、それとも左大臣・道長の言うように、遠くから見守るか。