対日政策は? 経歴は?「トランプ×バイデン」比較
●コロナ対応でも対照的
特に今年は、コロナ対策に注目が集まっている。両者ともに、まずは経済的に困窮する人々の救済を訴えるが、トランプ氏はワクチン製造のペースを速めるとともに、経済がこれ以上悪くならないようにと積極的に動いている。一方でバイデン氏は、より積極的な政府支出を主張しているほか、マスク着用の義務化なども訴えている。 そもそも、コロナ対策は選挙運動を大きく変えてきた。バイデン氏は感染拡大を受け、選挙活動のほとんどをオンラインで行ってきた。9月に入ってからは激戦州入りし、遊説する機会を増やしたが、参加者を限定。残りの人はオンラインで見てもらうスタイルを取り、自らもマスクをつけて演説をしてきた。徹底した「ソーシャルディスタンス選挙運動」だ。 これに対して、トランプ氏の場合には自らがマスクをせず、激戦州に乗り込んでいる。集会では多くの支持者がマスクをつけずに群れる姿が見られている。10月2日には、トランプ氏自身が新型コロナに感染したことを明らかにし、入院したものの、5日に退院すると、12日にはフロリダ州を訪問して選挙集会を開き、復帰をアピールした。
●重要性増す副大統領候補
大統領が選ばれると同時に、副大統領も決まる。共和党の現職副大統領であるマイク・ペンス氏(61)に対し、民主党の副大統領候補はカマラ・ハリス氏(56)だ。ハリス氏は父親がジャマイカ出身で、母親がインド出身。就任すれば、黒人女性およびアジア系で初めての副大統領となると注目されている。 トランプ氏とバイデン氏はともに70代であり、大統領任期中に健康状態などで問題が出た場合はペンス氏とハリス氏が地位を引き継ぐことになる。どちらも「次期大統領」に昇格する可能性がこれまでのケースより高いという意味で、今回の副大統領候補の重要性はかつての選挙以上である。
●日本にとって好都合なのは?
トランプ再選にしろ、バイデン当選にしろ、安全保障に関しては、強い日米関係を軸に東アジアの安定を図っていく姿勢は変わらないだろう。ただし、バイデン政権になった場合、例えば中国に対する圧力政策の優先順位が変化するであろう。トランプ政権では議論に入ってこなかった環境や人権問題が浮上する。安全保障と同列に語られるようなこともあるだろう。そうなると、日本側としてはアメリカ側の急な変化に戸惑いも出るかもしれない。日本の中には「民主党は共和党よりは日本を重視しない」という印象があるかもしれないが、例えばクリントン政権の時のような対日貿易問題も目立っていない。中国との対応に迷いがあり、同盟国日本との関係もややぎくしゃくしたオバマ政権の時代とは異なり、対中強硬政策などでは日本の役割が強く求められる。 トランプ政権に対しては、安倍首相の個人的な関係もあって、これまで日本はうまく対応できていた。同盟国の中では例外的だったといえるかもしれない。安倍政権の重鎮だった菅首相に対してもトランプ大統領は同じような肯定的な対応をするのではないかとみられている。安倍氏の体調が許せば、トランプ氏対応の特使としてアメリカに派遣することもあり得るだろう。トランプ再選の場合、やはり外交はトランプ氏との「取引」の側面が強いのは変わらない。「思いやり予算」増加要求や、貿易面ではさらなる米国製品の購入なども迫られるかもしれない。 いずれの場合も、中国の台頭、北朝鮮の核・ミサイル開発もあり、日本をめぐる安全保障上の環境は安倍政権の前よりもかなり悪化しているため、次の4年は日本が防衛問題をさらに積極的に考えないといけない時代になっている。また、米中関係を意識してアメリカとの関係を考えないといけないという連立方程式がさらに複雑になることは必至だ。
----------------------------- ■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著、北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著、東信堂,2014年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)など