未来の感染爆発の予想も可能に!? 今後、AIが健康にもたらす影響
検査画像の読み取りが正確になる
現時点でAIがもっとも活躍しているエリアは恐らく、X線やCTスキャンをはじめとする画像の解析。「AIのアルゴリズムは、画像を見てパターンを特定するのにとても適しています」とマドックス医師。これまでの研究結果も、AIに画像を見せると疾患の検出率が上がることを一貫して示している。マンモグラフィーにAIを用いると、専門医さえ見逃していた病気の芽が頻繁に見つかるし、大腸内視鏡検査にAIをリアルタイムで用いると、検出されるポリープの数が大幅に増加する。 放射線技師はAIの存在をありがたく受け入れている。というのも、頭脳”は1つより2つあったほうがいいことが分かっているから。「AIと人間の組み合わせは、どちらか一方のときよりも優れているケースがほとんどです」と語るマドックス医師によると、この状況は電卓が登場したときに似ている。電卓が会計士に取って代わることはなかったけれど、電卓のおかげで会計士は計算よりも重要な仕事に集中できるようになった。最初からAIにX線画像を解析させる研究では、AIが怪しい画像にフラグを立ててくれたおかげで放射線技師が問題のありそうな患者を優先し、通常なら11日かかるレビューを3日以内に済ませることができた。 X線画像に加えてAIは、心臓MRI検査の画像や、糖尿病患者の眼疾患の診断に必要な定期眼科検診の画像の解析も助けている。
AIによる診断と治療方法の提案が可能になる
まだ初期段階ではあるけれど、さまざまなソースからの情報をつなぎ合わせてスマートな結論を導き出すためにAIを用いる動きも始まっている。生成AIは、その重要な要素の1つ。マドックス医師は「生成AIに『異なる画像を見て情報をつなぎ合わせる』だけでなく、『それをベースに読みやすいレポートを作る』よう指示している」そう。 米医療機関のカイザーパーマネンテは、どの入院患者の病状が危険なほど悪化するかをAIが予測できるかどうかを調べるために、自社が運営する19の病院にAIを導入した。多数の患者1人ひとりの病状を把握するのは、医師にとっても看護師にとっても難しい。このAIツールは、全患者の臨床検査結果、バイタルサイン、看護師の報告書、病歴などの情報を定期的に受け取って、病状悪化の兆しを見せている患者に関する警報を発するため、医療班は速やかに治療法を変更することができる。3万5000人以上の患者を2年半以上追跡した研究では、警報発令後30日間の死亡率が16%低下して、520名の命が救われた。このまま技術が進歩すれば、AIが1人ひとりの患者に合った治療法を提案する日も遠くはない。 米医療機関大手マス・ジェネラル・ブリガムの調査では、AIが約70%の精度で適切な治療計画を生成した。また、同医療機関イノベーション&商品化部門副主任のマーク・スッチ医学博士によると、この数字はじきに改善する見込み。とりわけ脳卒中に関してはAIの活躍が期待されている。医師が脳卒中患者の検査結果をAIに評価させた研究でも、AIは指定の治療法が効きそうな患者を見事に特定してみせた。 スッチ博士によると、今後の疾病管理においては、コンピュータと医師が共同で意思決定を行う必要性が出てくるはずだ。でも、マス・ジェネラル・ブリガムのような医療機関には、これまでの患者の症状、検査結果、治療内容、病状の変化に関する膨大なデータが存在しており、そのすべてをAIが学習できることを考えると、AIの活躍の場は増えてしかるべき。「医師はトレーニングと診察に長い年月をかけないとベテランになれませんが、AIは短い時間で十分に鍛えられます。なんといっても、これだけのデータがありますからね」とスッチ医師。これからの医師は、人間の専門家からセカンドオピニオンを得るだけでなく、AIに別の意見を求めることもできるようになるわけだ。 米国をはじめ、ベテランの臨床医が少ない国や地域では、このようなシステムがとくに重要。マドックス医師は、患者が自分の居住地で基本的な検査を受けると、その結果が大きな施設に転送されて、コンピュータによる診断と治療法の提案が行われ、その情報が患者の居住地の医師に引き継がれる世の中を想像している。