新幹線、なぜ「1日乗り放題券」がないのか? 今後はあり得る? 高速性と収益性のジレンマを解き明かす
収益モデルの3分析
新幹線の収益モデルを次の三つの視点から分析する。 ・固定費と変動費のバランス ・ピークタイムの最適化 ・既存割引制度の役割 新幹線の運行には、非常に高い固定費がかかる。インフラ整備や車両のメンテナンス、スタッフの配置などは常に一定の費用が必要だ。例えば、1日乗り放題券があると、これらの固定費をカバーするための運賃収入が減少するリスクが生じる。東京と新大阪の間での片道の電気料金は26万~27万円だが、意外にも安く見える。しかし、新幹線は電動であり、環境負荷が小さくなっている。 東海道新幹線を例に挙げると、乗務員は東京、名古屋、新大阪に勤務地があり、約1400人の運転士や車掌が勤務している。また、車内販売や巡回を行うパーサーは東京と大阪で約800人、車両の清掃は東京駅と車両基地で合わせて約1400人が担当している。東京駅では、折り返し時間が限られているため、1班36人体制で清掃が行われている。さらに、終列車から始発電車までの間に、線路付近の異常を確認する作業も行われている。東海道新幹線だけで、1日1000人以上が保守作業に携わっている。 また、新幹線の16両編成(N700S)の導入費は約60億円で、補修部品費用や各種工事費、新路線開業費用、研究費用、赤字ローカル線維持費用などを含めると、相当な額が必要だということがわかる。特に、新型コロナウイルス感染症による3年間の新幹線の利用減少は、JR各社にとって大きな打撃であり、新幹線からの利益がいかに重要であったかが明らかになった。 次に、ピークタイムの最適化について。新幹線に需要が集中する時間帯に多くの利用者が殺到すると、混雑によってサービス品質が損なわれる恐れがある。1日乗り放題券のようなチケットがあれば、特定の列車を選ばずに自由に乗れるため、かなりの混雑が予想される。特に東海道新幹線ののぞみ号のように頻繁に運行される新幹線と異なり、他の路線では本数が少ない。東海道新幹線でも、ひかり号やこだま号は本数が限られている。昼間に仕事で利用すると、自由席が常に混んでいることが多い。新幹線は“多少の高級な移動手段”としてブランディングされているため、在来線との間での混雑分散を図りたいという意図がある。 最後に、既存割引制度の役割について。JR各社は期間限定や地域限定、購入日時限定、会員限定などのフリーパスを提供している。最近気になるのは、乗車日当日に購入できないフリーパスが増えてきたことだ。結局、ビジネス層を中心に、直前に手配せざるを得ない場合が多く、割引を享受できないように購入時限を設けることで、防いでいると考えられる。利益を確保するため、こうした購入時限が設けられているのは避けられないことだ。