新幹線、なぜ「1日乗り放題券」がないのか? 今後はあり得る? 高速性と収益性のジレンマを解き明かす
訪日客を魅了する新幹線の真価
新幹線は、日本を代表する交通インフラの象徴で、国内外で高く評価されている。1964(昭和39)年に開業して以来、革新的な技術とサービスで単なる移動手段を超えた存在となった。 【画像】「えぇぇぇ!?」 これが新幹線鉄道網の「現状」です! 画像で見る その高速性は世界の鉄道史に名を刻み、正確な運行時間は「日本の時間厳守文化」を象徴するものとして知られている。さらに、快適な車内環境や充実したサービスのおかげで、長時間の移動でも疲れにくく、多くの旅行者やビジネス利用者に支持されている。 特に、インバウンド(訪日外国人)にとって新幹線は日本旅行の大切な体験のひとつだ。多言語対応の案内システムや、車窓からの美しい日本の風景は観光の目玉となり、多くの外国人旅行者に感動を与えている。また、東京や大阪など主要都市を短時間で結ぶ利便性は、観光だけでなく国際的なビジネス交流の促進にも大きく貢献している。 そんな便利な新幹線だが、急なビジネスや予定変更にも対応できる 「1日乗り放題券」 のようなチケットは存在しない。期間限定や地域限定、購入日時限定、会員限定といったフリーパス型のチケットを除けば、事実上ほとんどないのが実情だ。 以前は、元日限定で東海道新幹線のこだま号自由席(名古屋から新大阪間ではひかり号も利用可能)やJR東海管内在来線の特急列車自由席が何度でも使える「新春こだま&ワイドビューフリーきっぷ」といったチケットが販売されていた。しかし、これらは期限付きで、いつでも誰でも購入してすぐに利用できる1日乗り放題券とは異なる。 本稿では、なぜ他の公共交通では見られるような1日乗り放題券が新幹線にはないのか、その理由を掘り下げていく。
もともとの運行モデルとさまざまな経済的制約
新幹線の設計思想は、 ・高速性 ・正確性 ・高頻度運行 を重視している。そのため、車両のイニシャルコストやランニングコストが常にかかるだけでなく、線路や電気設備などのメンテナンス費用も人件費込みで必要になる。 さらに、運転士や車掌、パーサーといった乗務スタッフの人件費や車両清掃員の人件費、車内トラブル防止のための警備員委託費など、さまざまな費用が発生する。これらの人件費は、安全運行のためにスタッフ数を維持する必要があるため、簡単に削減できない。結果的に、高コスト構造になるのは避けられない。また、鉄道はもともと 「距離に応じた運賃制度」 が基本設計になっている。長距離移動をすれば運賃や特急料金も高くなり、それによって前述のコストを負担する仕組みが公平だという考え方で成り立っている。加えて、新幹線は観光用途にも使われるが、主にビジネス利用が多い移動手段だ。 ここで個人消費の現状を考えてみる。賃金が上がらず物価だけが上昇している昨今、贅沢な旅行は控えざるを得ない。しかし、ビジネス利用の場合、必要な出張は職場が負担せざるを得ないため、特別に割引を提供する必要はない。職場が法人として費用を負担すれば利益を得られるので、鉄道事業者としてはその機会を逃さないように動く。 さらに、新幹線の収益は赤字ローカル線の維持といった地域公共交通事業者としての役割を支える重要な資金源にもなっている。このため、利益を生む新幹線で安易に割引を提供することは控えたいというのが本音だ。加えて、 ・新型新幹線の研究 ・JR東海によるリニア新幹線建設 ・JR西日本による北陸新幹線の延伸 といった大型プロジェクトが控えている状況では、長期的にできるだけ利益を確保したいという判断になるのは当然だろう。