長引く咳で眠れない… しつこい咳の原因はコロナ? マイコ?
新型コロナの今の主流は「KP.3株」
KP.3はワクチンや過去の感染で作られた抗体をすり抜けやすい特徴があり、感染力が高いといわれている。発症までの潜伏期間は3日程度、ウイルス排出量が特に高くなるのは発症直前・直後と考えられる。発症の2日前から発症後7~10日間程度はほかの人に感染させてしまう可能性がある。咳が長引くのは、ウイルスが悪さをし続けているということだろうか? 「いえ、体内に侵入したウイルスは、免疫機能がしっかり保たれていればある程度のところでなくなっていきます。咳が残ってしまうのは、免疫細胞がウイルスと戦うために作る炎症性物質(サイトカイン)が毛細血管に沿って広がっていくからです。 一般的な風邪の咳であれば3週間ほどで回復しますが、新型コロナウイルスの場合、通常の風邪より炎症がガッと広がる感じなので、ちょっとしゃべったりするだけでも喉に負荷がかかって、気管支の下のほうにまで炎症が広がって激しい咳を引き起こします。 炎症が肺胞の壁の部分である『間質』にまで広がれば、血液中に酸素を取り込みにくくなり、それがひどくなるとデルタ株のときに大流行した『間質性肺炎』になって呼吸不全に陥ってしまうこともあります」 以前、この連載で教わった免疫の暴走、サイトカインストームだ。 「そもそも炎症は体の防御反応で、炎症によって血流が上がることで、免疫細胞が現場に集まりやすくなったり、発熱で体温を上げることでウイルスの活性を弱めているわけです。けれどもウイルスが検出されなくなり急性炎症が治まっても、炎症が引き切らず長期にわたって持続すると、その部分の機能が損なわれます。 ウイルスがなくなっても肺の間質で弱い炎症がくすぶり続けていれば咳が長引くし、全身をコントロールする脳の視床下部に炎症が残ると疲労感が抜けないということになる。これが新型コロナの後遺症が長引いている背景と考えられます」 後遺症が長引くのは最近の新型コロナの特徴だろうか? 「統計をとってみると、感染回数が増えていくに従って後遺症が長引きやすくなることがわかっています。感染が重なると、前回の感染によって学習された免疫機能『学習免疫』によって抗体が作られやすくなり、それは次に新型コロナウイルスが来たときに重症化を防ぐ武器になります。 その一方で、抗体による免疫機能が働きすぎると炎症物質を誘導しすぎて、サイトカインストームを引き起こしたり、慢性炎症につながったりもするのです」 なるほど。ではこの方の長引く咳は新型コロナの後遺症なんだろうか? 「その可能性もありますが、細菌感染の可能性もあります。 今、流行っているのがマイコプラズマという細菌に感染することで引き起こされる『マイコプラズマ肺炎』。発熱としつこい咳が特徴で、夜間や早朝に激しい咳が目立ちます。咳は発症から3~5日ほど遅れて始まることが多く、熱が下がったあとも3~4週間と長期にわたって続くのが特徴です。 子どもに多い病気で約8割が14歳以下ですが、飛沫感染や接触感染で広がるので家族の中で感染が広がりやすく、大人がかかることも珍しくありません」 確かに周囲でも流行っており、感染した人の咳が続いているとの声も聞く。 「マイコプラズマ肺炎はオリンピックイヤーに増えるといわれています。オリンピック開催年は世界的に人流が激しくなり、人の出入りが激しく密な状況が増えるため感染リスクが上がるのです。 前回の東京オリンピックのときに激減したのは、新型コロナ感染対策の影響でしょう。パリオリンピック開催のこの夏は8年ぶりの高水準となっています」