日本で「アニミズム」が保存された3つの根本理由 「自然信仰」を踏まえた「地球倫理」の時代へ
ここでは人類学者タイラーについて論じることが主題ではないが、当時の社会的状況(ダーウィンの進化論の受容、イギリスでの心霊主義<スピリチュアリズム>、工業化の急速な進展等)も視野に収めながら、「アニミズム」という言葉の背景やタイラーの思想を再吟味していくことが重要と思われる。 そして、こうした「アニミズム」的な自然観・世界観は近年になって新しい形で注目され再評価されるようになっている。 その大きな背景の一つは、エコロジーあるいは環境問題への関心の高まりであり、人間と自然、あるいは生命と非生命(さらには有と無)の間に絶対的な境界線を引かず、それらを包括的ないし全体的な視座においてとらえるという意味において、「アニミズム」は新たな現代性をもつに至っているのである(これはいわゆる自己組織性など現代科学の方向とも共鳴する側面をもっており、こうした点については「新しいアニミズム」について論じた拙著『ポスト資本主義』岩波新書、2015年および『無と意識の人類史』東洋経済新報社、2021年を参照されたい)。
■アニミズムと日本 さて、先ほど「万物の中に魂(soul)あるいはアニマ(生命)が存在するという信念(faith)」という、タイラーによるアニミズムの定義にふれたが、この内容を見て、ある意味でそれは日本人にとってはなじみやすい、むしろごく当然とも言える自然観ないし世界観ではないかと感じた読者も多いだろう。 まさにそのとおりで、(自然の中の)「八百万の神様」、あるいは「鎮守の森」といった表現にも示されるように、日本においては、一つには神道ということとも関連しつつ、「アニミズム」的な発想や自然観が広く日常生活や年中行事等の中にさまざまな形で浸透していると言える。
そしてそれは、本欄の『「自然資本」への対応には日本の伝統文化が重要だ――SDGsと「鎮守の森」やアニミズム文化をつなぐ』においても述べたように、近年において気候変動や脱炭素をめぐるテーマと同様に大きな関心の対象となりつつある、生物多様性や生態系に関する話題ともつながっていくのだ。 たとえば、昨年(2023年)3月に策定された政府の「生物多様性国家戦略2023-2030」において、次のような文章が盛り込まれたのである。