都知事選、50億円を有益に 抜け落ちている「3つの論点」
【論点1】 「老いる東京」をどうする
ここ半年、コロナ対策に翻弄された日本。人心は動揺し、経済社会は大きく傷付いた。医療体制の脆弱さが露呈し、事業規模がGDP(国内総生産)の4割という空前の緊急経済対策に追われた。都政も1兆円を超えるカネを投入している。 だが、日本、特に首都東京にとってもっと深刻な問題がある。「老いるインフラ」問題だ。 よく「2025年問題」という。あと5年すると“団塊世代”全てが75歳を超え、医療、介護、年金等の社会保障が大変になるという話。東京も急速に高齢者が増える、それは事実で、これに膨大なカネが掛かる。 一方、「老いるインフラ」とは何か。東京は、50年前の五輪の頃から高度成長の波に乗り集中的に道路、港湾、橋、上下水道、歩道橋、学校、公共施設、地下鉄、鉄道、高速道など多くの都市インフラを整備した。それがこの先、一斉に寿命(耐用年数50年)を迎えるのだ。それは更新にせよ、廃棄にせよ、膨大な費用と時間が要る。しかも人口急減の中、どの規模で更新するのが適正なのか、誰も分からない。これが“もう1つの2025年問題”だ。 もとより、機械的に耐用年数50年で一斉に橋が落ちるとか、道路が陥没するということはなかろう。しかし、その素材がコンクリート、木材、鉄だけに脆(もろ)くなっている。ある日突然、それがわっと表に出る。気候変動で急増している集中豪雨や台風、地震などで一気に崩落し、大惨事につながる可能性がある。これを“想定外”とは言わない。“備えあれば憂いなし”。都民の安心、安全を確保するのが都政の役割であり、カネを掛けても計画的に更新し危機に備える、その道筋を示すのが都知事選ではないか。
【論点2】 「東京一極集中」をどうする
コロナ禍で傷んだ東京を復活させる。その道筋を示すのが都知事だ。ただ、それはこれまでの様な東京一極集中のままの復活なのか、違う「新たな東京」としての復活なのか。 東京は日本を牽引(けんいん)する機関車であり国税収入の4割も稼ぐ“稼ぎ頭”だ。ここが崩れては大変。だから人口減少の時代も東京に頑張ってもらわないと困る。これまでの小池都政も「国際金融都市」を掲げ、一極集中による機関車東京論を基調としてきた。 さらに言えば、これまでは(1)“集積が集積を呼ぶ”「規模の経済」を最大限生かしてきた(2)大規模市場が存在し、あらゆる商品、あらゆる品数があり、多様で選択可能な魅力ある仕事が多い(3)国内では首都・東京ブランドが高く、国際的にもニューヨーク、パリ、ロンドンと並び「TOKYO」の知名度は高い――などが利点として評価されてきた。 しかし、コロナ禍で3密都市東京のあり方に多くが疑問を持った。在宅勤務などを経験し、日常の満員電車に揺られ、国土の0.1%に満たない都心10区の職場に通い続けることが人間らしい生活だとは考えないようになった人も少なくないはずだ。 20年前、首都機能移転の論議が高まり、東京が首都でなくなる日が近いと思わせた。だが当時の石原慎太郎都知事は大反対し、これを潰した。10年前も道州制への移行論議が高まり、地方分権国家へのうねりになったが、小規模町村が消滅するなど地方の町村などの反対運動で衆院選に不利と立ち消えになった。 東京一極集中をどうするか。今後4年、舵を取る知事はこの問題から目をそらすことはできない。どう向き合うかは政治家・都知事の役割ではないか。そのビジョンを有するかどうか、次期都知事にふさわしい人物かどうかの大きな判断材料はここだ。