都知事選、50億円を有益に 抜け落ちている「3つの論点」
コロナ禍の都知事選には、現職を含め22人が立候補。史上最多だという。数だけ見ると華やかだが、中身はどうか。東京ではこの10年の間に4回も知事選があり、都庁のトップが「回転ドア」のように代わる、不安定都政が続いた。そのたび50億円の選挙費用を掛けてきた。今回も同額が都の予算から拠出される。これだけのカネを掛けるからには、それに見合う政策論争が展開され、都民が次代にふさわしいリーダーを選べるよう有益に使うことが望ましい。しかし、どうも目先の課題への対応ばかりが強調され、都政運営・都民生活に関わる論点が置いてけぼりになっているように映る。(行政学者・佐々木信夫中大名誉教授)
目先の危機対応だけで良いか
巷間(こうかん)言われるのは、今回の争点は2点だという。1つはコロナ対策のあり方、もう1つは延期された東京五輪・パラリンピックのあり方についてだ。 確かに、目の前の問題を処理するのが行政の役割であり、長である知事の役割であることには違いない。都民の関心もそこにあるとも言えよう。しかし、都知事の任期は4年であり、目先の対応だけに焦点が当たる現状には違和感を覚える。 歴史上、2020年は東京にとっても日本にとっても大きなターニングポイントになる年。人口減が本格化し、経済成長も事実上終焉している。当初の通りだったら、夏の東京五輪が終わった後の「ポスト五輪都政」を議論していたかも知れないが、コロナ禍で事態が大きく変わった。市民生活も経済活動も休止に近い状態に追い込まれたこともあり、目先のことにしか目が向かなくなっている。 この先、少なくとも4年間の都政の方向を示すのが候補者側の責任だ。史上最低の低投票率がささやかれており、「消化試合のようだ」とも言われる今回の選挙。コロナ禍で街頭演説や集会で主張する機会が減ったとはいえ、そうした都知事選は絶対に避けなければならない。 私の見る限り、大きく3つの論点が抜け落ちている。1つは「老いる東京」、2つ目は「東京一極集中」、そして3つ目は「都財政破綻の危機」だ。この基本的な問題の解決策を議論せずして、何が都知事選だろうか。