江戸時代の「吉原ガイドブック」には下世話な話が満載だった!
飲食店やホテルなどを利用する前にネットの口コミを参照する、というのは今や現代人の基本動作に近いかもしれない。一昔前ならば情報誌、ガイドブックなどが参考にされていた。 【写真を見る】実際の「遊廓ガイドブック」見る 読者の関心が高かったのはやはり“床”でのアレコレ
損をしたくない、行ってガッカリしたくない、という気持ちを持つのはいつの時代でも同じことのようで、江戸時代、遊廓についても「ガイドブック」が多数発行されていた。それら「遊女評判記」を丹念に読み解いたのが日本史研究者で、東京都公文書館専門員の高木まどか氏だ。 江戸の庶民、シンプルに言えば助平な男たちが食いついたと思われるこのガイドブックはどういうものだったのか。高木氏の著書『吉原遊廓 遊女と客の人間模様』から見てみよう(以下、同書から抜粋・再構成しました) ***
遊女評判記とは、文字通り、遊女の「評判」をまとめた本です。「評判」は今でいう「レビュー」にあたります。遊女たちのレビューは遊女の宣伝であり、且つ遊廓を知りたい客のガイドとなりました。すなわち遊女評判記は、遊廓を知るためのガイドブックであり、吉原案内としてよく知られる「吉原細見(さいけん)」の前身といえるものです。 その詳しい定義は研究者によって異なりますが、狭義の遊女評判記は現在一〇〇種ほどその内容を知ることができます。各地の遊廓について書かれたもので、はじめは京都島原遊廓や大坂新町遊廓を対象として盛んに刊行されましたが、のちに江戸吉原を舞台とするものがほとんどを占めるようになりました。 現代では通販サイトやグルメサイトにおけるレビューが盛んですが、遊女評判記はその対象や媒体が異なるというだけで、その本質にほとんどかわりはありません。大きく異なるのは、遊女評判記を編むのは基本的には一人、ということです。現代のレビューの利点はさまざまなひとの意見をみられることにあるでしょうが、遊女評判記はその点、作者の主観に偏っているといえるでしょう。 そのために、「あの作者のレビューは間違っている」と作者同士が出版合戦を繰り広げることも多々あり、その結果「たくさんの客にインタビューした」「この遊女については○○さんに聞いた」「仲の良いグループで意見をだしあった」といったことを明言するタイプの遊女評判記も多く刊行されます。そして遊廓を訪れる客は、これを手にとり目当ての遊女のもとに足を運んだという訳です。つまり遊女評判記は、作者が好きにまとめた遊女のレビュー本であり、かつ遊廓のガイドブックでもあったのです。 とはいえ、遊女評判記には、ガイドブックやレビューというにはあまりに余計な情報も含まれています。たとえば、遊女や他の客に対する恨み言や、お説教。すでに遊廓を出た遊女の行方。さらには作者が遊女と遊んだ自慢話が長々と書かれている場合もあり、「このレビューは参考になりましたか?」と問われれば、文句なしに「いいえ」だろうというものも枚挙にいとまがありません。しかし、そうした余計に思える記述こそ、遊廓の日々を知るにあたってはかえがたい貴重なものです。遊女評判記という史料の、最大の魅力といえるでしょう。