企業は文化のために何ができる? 大阪「MUSIC LOVES ART」を振り返る
企業ができること、すべきこと
セッション4は文化芸術の時代における企業のあり方・関わり方についての議論で、澁澤健(コモンズ投信取締役会長)、西村訓弘(内閣府戦略的イノベーション創造プログラムPD)、安田洋祐(大阪大学大学院教授)が登壇。「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することはできない」という渋沢栄一の言葉を紹介した澁澤は、長期投資やインパクト投資の考え方に触れ、機能と価値を分けないフレーミングを提案した。 西村は、若い世代がそもそも社会をより良くしようとする姿勢を持っており、企業もそのような価値観に応じた活動を示す必要があると指摘。自ら「徳本主義」と呼ぶ、徳を積むような評価軸の導入を提案した。 安田は、フリードマンが提唱した利益追求型の企業活動ではイメージ戦略的な(ある程度社会的取り組みをしないと株価が下がるといった)目的で芸術文化投資が行われるのに対し、企業活動そのものが利益追求だけではなくミッションを含んだものであると考えるドラッカーの思想を引き、現代では芸術文化投資がこれまでと異なる意味を持ち始めていると語った。 最後のセッションには角和夫(関西経済連合会副会長、阪急阪神ホールディングス会長)、都倉俊一(文化庁長官)が登壇、アーティストの村上隆もオンラインで参加した。角は傘下にある宝塚歌劇団の例を挙げ、経済的に持続可能な文化活動を作ることが地域の発展に寄与することを強調した。 アート展示のほうは展示場所の難しさに加え、制作・展示期間が作家に合っていないなど多くの課題が見えた。音楽と現代アートのコラボレーションでは、近年すでに小林武史や櫻井和寿が参画したReborn-Art Festivalやエイベックスが展開しているMEET YOUR ARTなど、音楽ファンと現代美術ファンの双方に訴求する取り組みが行われている。国家レベルでグローバル・アートシーンとの接続を目指すとしたら、今後は、経済界のプレイヤーと、世界のアートシーンや美術館に精通した専門家が密に協力しながら、齟齬を有機的に埋める作業に入っていくことになるだろう。 カンファレンスは、全体を通してテクノロジーや異なるジャンルとのクロスオーバー、文化芸術を起点にしたビジネスのアイデアとともに、企業活動における文化芸術の新しい考え方について模索する内容だった。今後の展開を大いに期待したい。 金澤韻(かなざわ こだま)◎現代美術キュレーター、株式会社コダマシーン アーティスティック・ディレクター。熊本市現代美術館など公立美術館にて勤務の後、フリーランスとして活動。十和田市現代美術館をはじめ国内外の美術館、まちなか、そして野外で、大型芸術祭を含む多数の展覧会を企画・制作。また、増井辰一郎とのユニット「コダマシーン」では、アートや工芸・デザインに関する商業案件を手掛け、場所や機会を最大化する取り組みを行う。
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