ウクライナ戦争ドローン最前線を「新しい中世」という視点から解き明かしてみる【後編】
今、ウクライナ戦争の最前線では、ドローンなしでは始まらない。その最前線を、慶応大学SFC研究所上席所員・部谷直亮氏は、「新しい中世」と呼ぶ。戦場で使われるドローンのほとんどは民生品だ。デジタルの世界では「技術の民主化」が起こり、ドローン戦の現場では、従来の軍事兵器と同等、もしくは上回る数の市販のドローンや個人レベルで作れるFPVドローンなど、民生技術がふんだんに入り混じっている。 【写真】ロシア軍が投入した有線ドローン 後編では、その最前線でドローンがどう戦うのか? 前編に続き、ハッカーで防衛技術コンサルティング会社技術顧問、現代戦研究会幹事を務め、国内外でドローンやAIなどを使った課題解決の実績がある、量産型カスタム師を招き、部谷氏とともに解き明かしを試みる。 * * * まず、ウクライナ軍のクルクス奇襲は何から始まったのだろうか? 「9つの段階に分かれます。それを記しながら説明しましょう。 まず、①隊移動の欺瞞:自由ロシア軍団による度重なる小侵攻(偵察も兼務)でした。 自由ロシア軍団はロシア領に何度も突入、侵攻させて、威力偵察をしていたんですね。 次に②自爆ドローンによるインフラ攻撃です。ウクライナ軍がFPV自爆ドローンで、ロシア領の変電所などを破壊しまくったんですよ。次に弾薬庫、燃料貯蔵庫の破壊が始まりました。私は6月くらいから何か変だな、どうしてFPVでクルスクの変電所を襲っているのかな?と思い始めて、攻勢が始まってから『ああ、やっぱりな』と確信しました。 さらに侵攻の前に、③自爆ドローンによるクルスクに向かう検問所や監視システムの破壊が行なわれました。FPV自爆ドローンでロシア軍の検問所、監視施設を破壊。それで、ウクライナ軍の電子戦部隊が先陣を切ったんですよ。 それから行なわれたのが、④電子戦部隊が機甲部隊に先んじて侵攻し、ロシア軍のドローンや通信を妨害。ここからクルクス奇襲が始まりました」(部谷氏) そして、ウクライナ軍のドローン部隊が出撃する。 「それで次が、⑤FPV自爆ドローンがロシア軍の偵察ドローンや攻撃ヘリを撃破。ロシア軍の偵察ドローンに、ウクライナ軍のFPVドローンが体当たりで撃墜します。さらに、ロシア軍の偵察ヘリ、戦闘ヘリにも攻撃を始めました」(部谷氏) ウクライナ軍機甲部隊にとって難敵のロシア軍Ka52戦闘ヘリをFPV自爆ドローンで無力化する。 「ウクライナ軍は、ロシア軍の目つぶしをして、通信も妨害したと言われています」(部谷氏)