北海道の宿泊税条例案、「二重課税」批判にも知事は強硬姿勢崩さず
26日に開会した北海道議会で、観光予算充実のために宿泊者から徴収する宿泊税の条例案の審議が始まる。道とは別に、道内では約20の市町村が独自の宿泊税を導入・検討中で、広域自治体と基礎自治体が同じ税目で徴税する「二重課税」の恐れがある。納税する観光客には多くの道民も含まれるが「観光立国」のかけ声の下で増税批判はかき消されがちだ。 【写真】法定外税の第一人者、宿泊税の「二重課税」をどう考える? 26日の記者会見。「それぞれの自治体には課税自主権がある。その権利に基づき、それぞれの行政需要に応じて税制度を検討している」。鈴木直道知事は「市町村との二重課税になるのでは」との問いにこう答え、批判はあたらないとの認識を示した。福岡県では、県のほかに福岡市や北九州市も宿泊税を導入している例も紹介。「さらに多くの人に(北海道に)お越しいただくべく宿泊税を導入して好循環を生み出していくことが重要だ」と道が新税を導入する意義を強調した。 ただ、福岡県は市町村が独自の宿泊税を導入した場合、県税分は減税する仕組みで、宿泊者の納める税額は県内どこでもほぼ同一になる。道ではこうした仕組みは導入しない。昨年9月、札幌市や函館市、旭川市など7市がこの仕組みの導入を提案したものの、道が一顧だにしなかったからだ。 法定外目的税の第一人者、神奈川大学の青木宗明教授(租税論)は「政治的にごり押しして強行突破しようとしているように見える」と道の姿勢を批判する。青木氏によれば、総務省は本来「二重課税」を認めていないが、福岡のケースは「福岡県と市が調整をする」ことを前提条件として例外的に認めている、という。道の条例案には市町村との調整をする規定は盛り込まれていない。「調整は二重課税と批判されないようにするための最低限の措置で、道内に宿泊する人の税負担は均一にすることが必要だ」と指摘する。 批判はこれだけではない。 開会を翌日に控えた25日。道議会には倶知安町の文字一志町長らの姿があった。同町の宿泊税は道内で先陣を切って2019年度から導入されたが、全国でも珍しい定率制を採用した。宿泊料金の一律2%を徴収する。宿泊施設の7割が分譲ホテルやコンドミニアムで、宿泊料金が人数ではなく、1棟や1部屋あたりで設定されている地域特性があるからだ。 道が定額制を導入すれば、町内の宿泊事業者の徴収事務は煩雑になり、負担が重くなる。町長らは議長や各会派を回り「道税と町税で異なる二つの制度の徴収事務が混在しないこと」や「道内の基礎自治体や地域ごとに定率制か定額税を選択できる制度の構築」を求めた。 しかし、鈴木知事は26日の会見で「道税も定率制にしてほしいという倶知安町の要望は検討したが、実現できないと判断した」と述べるだけだった。 道が強硬姿勢をとる背景には、観光業界の後押しがある。年間延べ4千万人の宿泊で45億円を見込む宿泊税収は全国の都道府県ではトップ水準。先行導入している東京都や大阪府、福岡県よりも多い。北海道観光機構の小金沢健司会長は21日、鈴木知事と会談し、宿泊税の早期導入を要望した。小金沢氏は記者団に「100%ご理解いただけるのが理想だが、どうしても最後は反対しているところとは真摯(しんし)にお話をし、ご理解いただけるように我々も協力していきたい」と述べた。(日浦統)
朝日新聞社