山本尚貴、スーパーフォーミュラ ラストレースへ
今でも彼が使う言葉のひとつだが、その不屈の精神がレースの場面で垣間見えた瞬間が、この2013年最終戦だった。
もちろん、山本にとって鈴鹿でのスーパーフォーミュラは良い思い出ばかりではなかった。
カーナンバー1をつけて臨んだ2014年。この年から車両がダラーラ製SF14に変わり、エンジンも2リットル直列4気筒ターボエンジンの『NREエンジン』に変わった。ただ、シーズン開幕の段階でリードしたのはトヨタ勢で、公式テストではホンダ勢はライバルに対して約2秒も遅れた。
それでも山本はライバルとの差を埋めるべく、連日夜遅くまでチームとミーティングし、改善案を模索。開幕戦ではポイント獲得とはならなかったが、最後までライバルに食い下がろうと必死の走りを見せていた。
この頃に彼が常々語っていたのが「苦しい時や辛い時こそ、腐らずに前を向いて頑張る」という言葉だ。そこからライバルとの差を縮めていき、2015年シーズンにはライバルと互角に渡り合えるところまでパフォーマンスを上げ、同年の最終戦鈴鹿で優勝を飾った。
もうひとつ、スーパーフォーミュラでの名勝負として語り継がれているのが、2018年の最終戦。ニック・キャシディとの一騎打ちだ。最終戦を迎える段階でランキング3番手だった山本だが、今までとは違う気合いの入り方で、予選前や決勝前は取材でも近寄れないくらい鬼気迫る雰囲気があったのを覚えている。
当時はドライタイヤが2スペックあり、ポールポジションの山本はソフトタイヤを選択。4番手スタートのキャシディはミディアムタイヤを履いた。前半は山本がリードしたが、途中のピットストップを終えると流れは逆転。キャシディが1周あたり1秒近いペースで山本に迫り、ラスト3周は手に汗握るバトルとなった。
この時はブレーキに不具合があった山本。残り2周のシケイン入り口ではフロントタイヤがロックアップし、それを大型ビジョンで見ていたグランドスタンドのファンからは悲鳴が上がるほど。鈴鹿サーキットにいる全員が、2台のバトルに釘付けとなっていた。