合成メタン生成「新触媒」で伊藤忠が攻勢かける、製造能力10倍に
伊藤忠商事は合成メタンを生成する触媒の生産・販売で攻勢をかける。子会社の伊藤忠セラテック(ICC、愛知県瀬戸市)が、合成メタンの原料となる水素と二酸化炭素(CO2)の化学反応を低温環境で効率的に促進する新たな触媒を開発した。2025年度に数十億円を投じて生産棟を増設し、新触媒の生産能力を引き上げる。伊藤忠は工場などからCO2を回収して合成メタンを生産するニーズが拡大すると見込み、国内外で新触媒の拡販を狙う。(編集委員・田中明夫) 【写真】合成メタンを効率的に生成する新触媒 ICCが開発した新触媒は、従来品に比べ1―2割低い350度Cの環境下で水素とCO2の化学反応を促進する。CO2から合成メタンへの転化率は約90%と従来より1割以上高く、エネルギーコストを抑えながら効率的に合成メタンを生成できる。 セラミックス生産で実績のあるICCは、触媒の耐久性を強める土台(担体)から自社開発できることに加え、化学反応をコントロールする触媒中の穴の数や大きさを「ユーザーの要望に合わせて調整できる技術力が強み」(矢島久嗣ICC社長)。担体にアルミニウム原料のアルミナを活用するほか、触媒には貴金属のルテニウムの代替として相対的に安価なニッケルを使ってコスト優位性も高めた。 合成メタンは燃焼時にCO2を排出するが、工場などから回収したCO2を原料にしているため排出量は実質ゼロになる。メタンを主成分とする都市ガスの既存導管を供給に活用し、インフラの整備コストも抑えられる。政府は50年までに都市ガスの90%を合成メタンに置き換える目標を掲げている。 ICCは合成メタンの製造装置メーカーや合成メタンを社内外向けに生産する企業で新触媒の需要が拡大するとみて、数年以内に新触媒の製造能力を現状比10倍程度の年間数百トンに引き上げる計画だ。さらに「伊藤忠グループのネットワークを使って新触媒を拡販する」(伊藤忠商事中部支社の山中直樹企画開発部開発室長)とし、国内外の市場開拓を狙う。 一方、合成メタンの普及に向けては、再生可能エネルギーを使った水の電気分解による水素生産のコスト低減が課題だ。ICCは電気分解を促進する触媒も開発済みのほか、伊藤忠は北九州市で水素の供給拠点整備などを検討している。事業間の相乗効果を発揮し、競争力のある次世代燃料のサプライチェーン(供給網)を構築できるかがカギとなりそうだ。