尋常でない中国軍部…血なまぐさい習近平の軍粛清の嵐(1)
「権力は銃口から出る(槍杆子里面出政権)」。毛沢東のこの言葉は権力の土台は結局武力であるという点をしっかりと語っている。鄧小平はそのため1989年の天安門事件の際に急に抜てきした江沢民に、1週間に3~4回は必ず将軍らと食事をするように勧めた。ところが江沢民の後を継いだ胡錦涛はそうできなかった。江沢民が育てた将軍らに挟まれて気を抜くことができないまま任期を終えた。弱い指導者という言葉が伴ったのは当然だ。 習近平は違った。軍部の手入れに出た。それも最高位層を狙い、江沢民の側近である2人の元中央軍事委員会副主席を腐敗容疑で逮捕した。徐才厚は裁判を控えてがんで死亡し、郭伯雄は終身刑に処された。習近平執権1~2期の10年間で粛清された将軍だけで160人に達し、これは1927年の紅軍建軍以来多くの戦闘と文革の狂乱の中で消えた将軍の数よりも多いという。 中国の習近平国家主席はそうして固めてきた軍事力を基に憲法まで修正し、3期目の執権に成功した。ところがそんな中国軍部が尋常でない。また再び血なまぐさいにおいのする粛清の嵐が吹いている。始まりは2023年7月に当時中国軍の核資産の中心であるロケット軍が荒廃してしまったことだ。ロケット軍司令官の李玉超を筆頭に、劉光斌副司令官、張振中元副指令官らがいずれも党中央軍事委規律監察委員会の調査対象になった。 ◇解放軍報に「集団指導体制」寄稿掲載され注目 また、呉国華元ロケット軍副司令官が突然死亡した。66歳だった。中国のあるメディアは病死としたが、台湾メディアでは自ら命を絶ったという報道が出てきた。いったい何がロケット軍指揮部をまるごと吹き飛ばしたのか。こうしたことはいつもそうであるように表向きに知らされた容疑は腐敗だ。しかしざわめく民心は奇異なうわさを生み出す。唐の時代の予言書「推背図」が広く知られ始めた。 推背図の予言によると、ある軍人が皇帝を害しようと弓と刃物を隠して裏口に入ってくる。現代の弓はミサイルだ。したがってロケット軍が習近平を害しようとするものと解説できるということだ。そのためなのか。当時南アフリカで開かれたBRICS首脳会議に参加した習近平は北京に直接飛んでこないで中国の地方都市を経由して帰国する妙なスケジュールを組んでこうしたうわさを増幅させた。 しかしロケット軍が崩壊した本当の理由は機密流出とされている。米空軍大学傘下の中国宇宙航空研究所が2022年10月の中国の第20回党大会後に中国ロケット軍関連報告書を出したが、ここに相当な高級情報が含まれていたということだ。一般には分かりにくい中国のミサイル発射システム情報を米国が確保したとみられものだが、これが中国指導部を衝撃に陥れ、ロケット軍を大々的に調査することになった隠れた背景という話だ。 そういえば中国が国際社会の懸念にもかかわらず、大幅に強化された反スパイ法の施行に入ったのが2023年7月からだ。中国政府は過去、スパイ容疑適用対象を国家機密や情報を持ち出した行為に限定したが、この時に法を改正して機密ではなくても国家安全保障と利益に関するものと判断される場合には処罰できるようにさせた。当時は実際に何が国家安全保障に該当するのかの概念規定すらなく問題が多いという指摘を受けた。 ところがロケット軍の粛清はここで終わらない。2023年9月中旬から李尚福国防相の落馬説が出回り始めた。中国軍装備開発部はこれより2カ月早い2023年7月末から「2017年10月以降に発生した調達関連腐敗の申告を受け付ける」という通知を発表しているが、ここに李尚福国防相がひっかかった。腐敗が装備とつながるのはとても容易だ。李尚福は中央軍事委員会装備発展部長在任中にロシア製戦闘機とミサイルシステムを購入し米国の制裁対象に上がったりもした人物だ。 武器調達担当だった李尚福の粛清に続き、今度は司法のメスが中国防衛産業企業を無慈悲に叩いた。中国航天科学技術グループと兵器工業グループ、兵器装備グループの代表が相次いで取り調べを受け始め、中国メディアでは「ダイコンを抜いたら土がついてくる」という言葉で軍需産業の不正を叱咤した。中国のミサイルには燃料の代わりに真水が詰められており、本来のミサイル燃料は火鍋を作って食べるのに使ったというあきれた報道が引きも切らず続いた。