今、歌うために走っている――小田和正74歳、これからに向けて鍛え直す日々
みんなの前で歌うことで、みんなの言葉になる
2020年4月、緊急事態宣言が発出されるなか、小田は「風を待って」という新曲を完成させた。 「最初は意地でも、コロナの状況を一切感じさせない、普通のラブソングを書くつもりだった。でもどうしても、“それ”を書かないと先へ進めなかった。『がんばろう』とかそういう明確な言葉ではなく、早くそうなればいいねっていう気持ちを歌ってみようと思った」 「きっと大丈夫」と歌うこの曲は、今を大切にすることをテーマに書かれ、聴き手にそっと寄り添う。2021年12月、レコーディングから1年半を経て、初めて観客の前で披露した。放送開始から21年目となる音楽番組『クリスマスの約束』の公開収録だった。『クリスマスの約束』は、小田のライフワークともいえる番組だ。小田がホスト役としてさまざまなアーティストを迎え、セッションを楽しむ。 「レコーディングしている時、歌詞は自分だけのもの。みんなの前で歌うことによって、みんなの共有する言葉になり、それぞれのストーリーになる」
小田は、1970年に「オフコース」の一員としてデビュー。「さよなら」「Yes-No」「言葉にできない」など次々とヒット曲を世に送り出した。89年に解散後、ソロ活動をスタートさせ、91年の「ラブ・ストーリーは突然に」が270万枚を超える大ヒットに。以来、「バンドではやらなかったことをやってみよう」と考え、ファンを楽しませてきた。『クリスマスの約束』もその一つだ。小田自身、幅広い世代のアーティストが集まるこの場所で刺激を受ける。 「若い人たちと楽しくやるには気力も必要で、そこにたどり着くのは毎回大変だけどね。今の若い人たちの音楽は、ファルセットを自在に使って、コード進行も面白くて、音がすごく飛んだりする。最初はタネも仕掛けも分からない感じだった。昔は音楽についての情報がそんなになかったけれど、今の人たちは知識もノウハウも豊富で、達者な人が多いね」