今、歌うために走っている――小田和正74歳、これからに向けて鍛え直す日々
時代を超えて歌い継がれる曲とは?
50年以上、音楽業界に身を置いて、特に変化を感じているのは「言葉」だと指摘する。 「昔は見よう見まねで歌詞を書いていた。でもある時、字余りソングみたいなものが出てきた。その象徴が(吉田)拓郎で、新しいものが出てきた瞬間だったと思う。そこからラップが入ってきたりして、字余りではなく、ちゃんとビートに乗せて表現されるようになった。みんなけっこう早口で歌うようになったじゃない? そういう言葉の乗せ方が、僕らの若い頃にはなかった感覚」 歌詞の内容についても違いを感じている。小田をはじめ、井上陽水、松任谷由実など、70年代にデビューしたアーティストの楽曲は、長く歌い継がれてきた。その“強さ”の秘密をたずねると、やはり言葉ではないかと言う。 「僕たちの若い頃は情報も少ないし、何もなかった。何で戦うかといったら、言葉だったと思う。だから背伸びをした。いろいろな物事に対して問題意識を持って、本質的なことを歌おうとした。この年でこの歌詞を書くのか、というような言葉。必死に言葉を探して、もともと自分の中にないものでも、自分の感情と言葉で強く訴えた。極端に言えば、アジっているというか。そういう気骨が人の曲を聴いても伝わってきた。そのあり方が、残っている理由じゃないかな。みんな残ろうとしてやってきたわけではないと思うけどね」
時代を超えて歌い継がれる曲について、こう続ける。 「シンプルであること。それと、直接的には伝わらなくても、その人が織り込んだメッセージがあると、深く届くんじゃない? 自分で書いていてつくづく思うのは、何かよさそうだけど、飽きるだろうなと思うものはやっぱり残らないね。これは飽きないというものを見つけたら、しめたもの。飽きる飽きないはメロディーとの兼ね合いもあるし、歌ってみれば分かる。自分が飽きないと確信できるものがあれば、迷うことはない」 小田は歌詞をどのように生み出しているのか。自然と浮かび上がってくることもあれば、推敲を重ねてたどり着くこともあるという。 「探して探して、こんな強い言葉があったかというのが見つかると、すごく意欲が湧くよね。ああ、これで書けるって。今はそういう強い言葉を使うことはなかなかないけど、昔はけっこうあった。例えば〈愛を止めないで〉は、分かりやすいし強さがある。書いている時はそこまで強いとは思ってなかったけど、年をとってからそういうものを探そうとするともうないな」