今、歌うために走っている――小田和正74歳、これからに向けて鍛え直す日々
「『愛を止めないで』(79年)に〈なだらかな明日への坂道を駆け登って いきなり君を抱きしめよう〉という歌詞があるんだけど、当時ファンから『表現がストレートすぎてオフコースらしくない』と反発があって。『らしくないってなんだ』ってちょっとムカッときて(笑)。それで『Yes-No』(80年)で、〈君を抱いていいの 好きになってもいいの〉って歌ったんだ。『小田さんは感情を包んで表現するはず』というファンの気持ちを踏みにじったかもしれない(笑)。でも今、70を過ぎて歌ってもみんな喜んでくれる。ここに来て、決着がついたというかね」 数えきれないほどの楽曲を創作してきた。才能が枯渇するのでは、という恐怖に直面したことはないのだろうか。 「常に枯渇していますよ。そこから始まってるから。また同じこと書いてるなって思うこともある。でもちょっと角度を変えただけで、全く別のものになったりするからね。昔は冗談半分に、『湧き出てきちゃうからなあ、参ったなあ』とか言ってたけど(笑)。自分を勢いづけるつもりで。だから、それを演じてもいいんだよな」
いよいよ終活、集大成として――
昭和、平成、令和にかけて、音楽の届け方、聴き方も変遷した。「風を待って」は、小田としては初めての配信シングルだ。現在の音楽シーンをどう見ているのだろうか。 「デジタル時代はもうギブアップな感じだな(笑)。配信シングルについても、どういう色合いを持ってみんなに伝わっているのか、イメージできないんだよね。よく『何億回再生された』というけど、もう自分の世界じゃない。最近、アナログ盤ってやっぱり雰囲気あるなと思って。針が拾う微妙なノイズもいいなと思う。現実的な届き方というかね。デジタルの技術者が開発した音より、エジソンが発明した、溝から音を拾って聴くレコードのほうが、やっぱり自分の時代だから。なんだかんだ言い訳してるけど、音の進化についていく気もなくて。でも、音はきっとまだまだ変わるでしょう」