3枚重ね接合は難しい! ホンダが世界初の技術を投入した「CDC溶接」とは?
ホンダは2026年からグローバル市場への投入を予定している新たな電気自動車(EV)、「Honda 0(ホンダ・ゼロ)シリーズ」への搭載を予定している次世代技術を公開している。ホンダの次世代技術のすべてをジャーナリスト、世良耕太氏が解説。第6回は、インバーター技術を応用した世界初のスポット溶接技術、CDC溶接について。 【写真】CDC溶接の仕組みを写真と図解で説明 TEXT :世良耕太(SERA Kota) PHOTO :Honda/MotorFan.jp 従来では不可能だった超ハイテンを含む3枚重ねの接合を可能とする EVはフロア全面にバッテリーを搭載するため、とくに乗員保護とバッテリー保護の観点で衝突要件はより厳しくなる。センターピラーを例にとると、外側にデザインを決める薄板軟鋼があり、その内側に強度を受け持つ厚板(超ハイテン材)が2枚重なっている。薄・厚・厚の3枚重ねで、ハイテン材を含む異なる板厚の組み合わせが溶接を非常に難しくしている。しかも、軽量化が欠かせない。 CDCでは、2枚の厚板をより高ハイテンの材料に置換しても溶接が可能だ。より高ハイテンに置換すると素材そのものの強度が上がるので、使用する材料を削減でき、車体の軽量化を図ることが可能になる。強度がさらに必要な部位では、ハイテン材の板厚をより増しても溶接が可能だ。どちらの板組も、従来のスポット溶接では溶接できなかった。 現在、ボディ骨格の溶接で使われているスポット溶接は、一定の電流を流す直流(DC)方式が主流だ。ロボットが溶接ガンを把持し、先端部分の電極で溶接箇所を挟み、約1万アンペアの電流を流すことによって板を発熱させ、溶接を完了する。このDC方式が優れているのは、インバーター制御を用いることで溶接ガンを軽く、小さくすることができ、ロボットへの搭載や自動化を可能にしたことだ。 しかし、課題が顕在化してもいた。材料の進化にともない厚板のハイテン化が進むと、板が厚いことによって内部で発熱が促され、溶融金属が飛散するスパッタが発生。これにより、強度低下を招いた。いっぽう、薄板側は発熱しにくく、溶接不足になる。 他方で、交流(AC)方式の溶接も古くから行なわれている。重量が非常に重いため自動化は困難とされているが、ピーク電流が高いことにより薄板側で発熱が促され、休止時間があることで厚板側の発熱が抑制されやすい特性を持っている。 CDCはDC溶接とAC溶接の良いところを高次元で成立 DC方式の長所は溶接ガンが軽いこと(トランスの重量:23kg)。短所は厚板の強度低下を招き、薄板は溶接不足になること。いっぽう、AC方式の長所は薄板側で発熱が促され、厚板側の発熱が抑制されること。短所は溶接ガンが重いこと(トランスの重量:130kg)。従来のDC溶接とAC溶接の優れた点を高次元で融合させたのが、ホンダが開発した世界初のCDCである。小型軽量なDC方式としながら、ハイブリッドシステムの開発で培ったインバーター技術を応用することで波形を制御し、高いピーク電流(→薄板側の発熱を促す)と熱量の休止時間(厚板側の発熱を抑える)の両立を可能にした。 ・高いピーク電流を持つ最適化された波形を目標値制御することでコンスタント(一定)に保つ技術 ・休止時間を自動で制御することで指定の熱量をコンスタント(一定に)保つ技術 この2つの着想技術から新たに開発した溶接技術はConstant DC Choppingの頭文字をとってCDCと名づけられた。コンスタント(一定の)DC(直流)チョッピング(電流をかける時間とかけない時間を切り刻むように制御する)というわけだ。 CDCの大きなメリットは、既存の溶接ロボットにガンが備えるトランスの高出力化(重量:28kg)と電流センサーの追加、そしてCDCソフトウェアのインストールで対応できる点だ。つまり、大幅な工事を必要とせず、既存量産設備に導入することが可能である。 Honda 0 Tech Meeting 2024の会場でCDC溶接のシミュレーション動画を確認した(公式サイトで視聴可能)。従来のDC溶接は一定の電流を流し続けるため、発熱も一定となり、鉄が溶融した部分、いわゆる溶融池が単調に拡大していく。その結果、堰き止めている壁の部分が非常に薄くなってしまい、最後には決壊してスパッタが発生する。 https://youtu.be/9QaJX9yuGE8 いっぽう、CDCはパルス制御を行なっているので、溶融池が拡大・収縮を繰り返して厚い壁を効果的に作るため、スパッタを抑制する。また、従来DC比約2倍の高いピーク電流を持つCDC波形は、DCでは見られなかった薄板側の広範囲の発熱を促す。薄厚間の溶接と厚板間スパッタ抑制という背反要素を両立させたスポット溶接がCDCというわけだ。 スポット溶接を革新的に進化させたCDCはHonda 0シリーズを基点に、さまざまなEV、エンジン車、ハイブリッド車へと適用を拡大していくという。
世良耕太