自動車メーカーから大学教授に 「事故のない自動運転」を追求
現地調査して道路の3次元モデル
交通事故は、いくつかの条件が重なって起きることが多いといわれています。 「交通事故はまさしくドミノモデルで、複数の要因が重なり合って事故が大きくなることが多いのです。それぞれの原因を個々に取り除いていけば、事故を防止することができます」 國行教授が力を入れているのが、地元の長野県に特徴的な交通事故の要因の解明です。長野県は中山間地域が多いため、カーブや坂道での事故の比率が高くなっています。学生と事故現場に調査に行って写真を撮り、カーブの半径や勾配、道幅などを計測し、そこから3次元の道路の立体モデルを作ります。 そしてドライビングシミュレーターや事故再現シミュレーションソフトを使い、疑似運転をして、ドライバーの視線の動き、死角、相手からの見え方などをもとに実際の事故を検証しています。 「一つ一つの事故を解析すると、カーブ手前の直線の距離が長いとスピードが出て、減速が遅れるというような要因がわかってきます。真の要因にたどり着けたときは達成感があります」 國行教授は同時に自動運転の安全性の研究にも注力しています。たとえば、AI(人工知能)を搭載した自動運転の模型車両を2台走らせて、どこに死角があるのか、2台がどうなったときに事故が起きるのかなどを調べる実験をしています。 「自動運転の事故のシーンを抽出できれば、それに応じた技術を開発して事故を防ぐことができます。テストを繰り返して早い段階で課題を抽出して解決する必要があると思います」
大学時代はグライダーで空を飛ぶ
子どもの頃から乗り物が好きだった國行教授は、大学の工学部で機械物理工学を専攻し、課外活動では航空部に入ってグライダー操縦のライセンスを取り、空を飛んでいました。大学院で研究したのは、ジェットエンジンなどで使われる、羽根を回して空気を吸い込む回転体の振動解析です。大学院修士課程修了後、日産自動車株式会社に就職し、車の振動、騒音、衝突の実験や車両開発を担当しました。 衝突の実験では、車にたくさんのセンサーを付け、人間の代わりにダミーの人形を乗せて、実際に衝突させてデータを取ります。車で100種類、ダミー人形で100種類くらいのデータを分析していました。 2017年に諏訪東京理科大学に移り、自動車の安全性能や交通事故の研究を続けています。企業と大学では研究の環境にどんな違いがあるのでしょうか。 「研究対象は同じですが、企業は製品を販売してお客様から対価をもらうので、コストや開発日程も考えなくてはなりません。その代わりに資金力は、大学とはケタ違いです。メーカーの車の開発では、数十億円をかける設備も珍しくありません。 一方、大学は自分の思うような形で研究ができ、自由度が高いことが特徴です。ただ、実際に車を使って実験をするのは難しいので、理論的な部分にフォーカスした研究を中心にしています」 長年、交通事故を分析してきた経験から、自動車側の対策だけでは事故は減らせないことを実感しています。そのため、「自動車の安全技術に加えて、道路などの環境の視点からも新たな施策を提示していきたい」と話します。