新国立競技場をデザイン 建築家の隈研吾氏が会見(全文1)
いつでも人がアクセスできる親しみやすい空間に
それからこの断面は3段のスタジアムというふうにすることによって、どの席からも観客席を近く感じられる。アスリートと観客をできるだけ近く感じられる、そういうセクションになっています。 で、もう1つのわれわれの売りは、「空の森」と言われる空中の遊歩道です。ここはいつでも市民に開かれた遊歩道で、ここに見える外の外部階段によって、直接市民がここにアプローチできます。1周850メーターなので、ここでランニングする人もいるでしょうし、ゆっくり散歩する人もいるでしょうし、ベンチに座って東京を空から見る人もいるでしょうし、そういう方たちがここを楽しんでいただけるようにこれをデザインしました。 私は毎日、この前、前のスタジアムの前を通っていて、イベントをやっているときはいいんですけど、そうじゃないときは何かコンクリートのお城みたいですごくさみしい感じがしたので、いつでも人がここにアクセスできる、そういうふうな親しみやすいスタジアムにしたいと思って空の森をつくって、しかもそこが木の空間の中に空の森があるということをデザインいたしました。 で、これはもう1つの環境に対するわれわれの提案で、渋谷川、昔は新宿御苑が水源で、渋谷川というのがここを通って渋谷のほうに行っていたのですね。その渋谷川をもう1回復元する。そのせせらぎの部分がこれです。
木をもう一度都会へ 屋根が都市の建築物には必要
で、このスタジアムのスライドのほかに、今日は実は私どもが今までやった建物も少しスライドを持ってきました。それによってどんな感じっていうのをちょっとイメージしていただければいいなと思いました。 これは浅草文化観光センターっていう浅草の浅草寺っていうお寺の前にある文化観光センターです。これは浅草寺の有名な雷門ですね。で、この雷門の前にわれわれのこの文化観光センターがあります。これはコンペのときに出した案なんですが、ここでもひさしが重なっていて、ひさしの下に柔らかい陰をつくるというのがテーマになっています。これが断面ですね。これを見るとひさしがたくさん出ている、その下に陰をつくるということ。それによって太陽光をカットして、省エネルギーを図るというようなわれわれの意図が分かると思います。 これが完成予想図で、これが出来上がったものです。このように外壁はやはり杉をたくさん使っています。今回もわれわれ、杉を提案しています。杉を壁の外壁の部分、それから唐松を屋根の部分というふうに提案をして、杉と唐松というのは日本を代表する木の1つですけれども、これによってやはり国産材をたくさん使って、このスタジアムによって日本の森を元気にしようという気持ちもあります。 このように、外壁というので杉を感じられるわけです。で、その杉を腐らなくする、燃えなくするという技術も、今は世界中でここ20年間ぐらい非常に速いスピードで技術の革命がありました。そういうふうにして木をもう1回、都市の中でも使えるようになった。こういう世界の新しい流れがありますけれども、今回の国立でもそういう木の新しい処理の仕方というものが施されるわけです。これは浅草のインテリアですね。 で、次はフランスでもわれわれは同じような考え方、同じようなコンセプトで、ブザンソンという街のCity of arts and cultureというのを設計しました。これは出来上がったのは3年前です。このブザンソンっていう街は世界指揮者コンクールをやるというところで、小澤征爾(せいじ)さんがここで24歳のときの世界で一番に選ばれた街で、日本ともとても関係が深い街です。これが敷地です。で、真ん中のレンガの建物を保存して、で、その上に木の建物をかぶせました。このように川と、それから街の間に、この左側の部分はせせらぎを復元したところなんですね、この左側のところ。で、同じようにせせらぎをここでも復元して、街の人が水を感じられるようにするというデザインにしました。 これは川から見たとこで、ここでも木です。ここは唐松です。フランスの唐松を使ってます。French larchですね。で、これがそのせせらぎを復元したところで、新しくこういう水の流れを使って、この屋根を、やっぱり同じようにひさしをつくったんです、ここでも。で、ひさしをつくって、見上げると木が見えるということをやって、ここはこの市の人にとって、非常に素晴らしい散歩道になりました。僕はこれを縁側、縁側ってフランスの人にも説明していますけれども、このようなひさしの下のスペースというのは、世界中の人からきっと愛されるというふうに私は信じてます。これも縁側ですね。で、植える植栽もなるべく地元の、ローカルの草や花を植えて、そこのローカルな自然を大事にするということを考えました。これはやはり光と影をデザインした、ここは僕は「木漏れ日」というふうに呼んでる場所です。 で、屋上には、ここでも太陽光パネルと、それから緑のグリーンルーフというのが組み合わされています。次のものは2年前にできた、これはパリの建物で、Entrepot Macdonald、マクドナルドはハンバーガーではなくて、マクドナルドは通りの名前です。これはエデュケーションとスポーツの複合体で、パリの北のコミュニティーの、やはり中心になる施設です。1970年にEntrepot Macdonaldというのがマクドナルド通りの前に500メーターの長さの建物でできました。で、そこの500メーターを6人の建築家が、それぞれ場所を分割してデザインして、われわれは一番西側のエッジの部分を担当しました。 で、われわれはこの部分も古い、下にある白い建物は1970年にできた建物で、その上に屋根を乗せたんですね。で、その屋根の下にできる影がここに来る人たちに安らぎ、安心感、そういうものを与えるというふうに考えました。で、これがその屋根のデザインですね。で、このルーフは、実はこのルーフの下も唐松でできています。で、唐松を、この下から見上げたときに、この唐松の質感が見えるっていうのが、すごくあったかい感じがして、優しい感じがしていいというふうに、この市民の人たちからも評価していただきました。 われわれは屋根を使ったんですが、ほかの5人の建築家は全部箱の上に箱を乗せたデザインだったので、私どもはやはり屋根というものが都市というものにとってこれからは必要じゃないか、そういう屋根、ひさし、そういったものが必要ではないかというふうに考えて屋根を提案したわけです。