新国立競技場をデザイン 建築家の隈研吾氏が会見(全文1)
太陽光と伝統的日本建築の風を取り入れる知恵を活用
で、これがスタジアムの中です。ここでもわれわれは木が感じられるような空間にしたいというふうに考えました。屋根は木と鉄を組み合わせたコンポジットのストラクチャーでできていて、特に下から見上げたときに木が一番見えるようにデザインをしました。ここのスタジアムの観客の方は、スタジアムに入ると、あ、木に囲まれてるっていう、とても何か温かさとか柔らかさを感じていただけるんではないかと思っています。 それから、この絵でもう1つ注目していただきたいのは、真ん中の抜けてる空が見えるとこの部分の周りに、ガラスの屋根があって、そのガラスは実は太陽光パネルが取り付いています。このソーラーパネルは下から見えるんです。ソーラーパネルがあっても、屋根にあって見えないとソーラーパネルのことが、観客の方に分からないので、ここではソーラーパネルが下から見える、そういう環境技術の見える化というんですが、それを行おうというふうに考えました。 この太陽光パネルで発電された電気が、この建物の先ほどの緑がありますが、その緑の水をやるエネルギーに使われます。それからあとで出てきますけれども、ここにもともと流れていた渋谷川の水の流れを再現するというのをわれわれはやっているんですが、その渋谷川の水をポンプで循環させるためにも、このソーラーエネルギーが使われています。 これが建物の断面図です。で、ここで見ていただきたいのは、外にひさし状のものが付いていて、先ほどの木でカバーされたひさしが付いていて、そのひさしの下にできる陰、この陰というのが先ほどの法隆寺の五重塔でもありましたけども、ひさしの下の陰が建物に落ち着きを与えて、森と建物を調和させる。これは陰というのがとても大事で、日本建築の場合、谷崎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』、皆さんご存じだと思いますが、そこにうたわれているように陰の美しさというもので、森と建築を調和させようとしたわけです。 あともう1つ見ていただきたいのは、風がここで矢印で書いてあります。今回は風をどうやって建物の中にうまく取り入れてきて、空調をしなくても快適な空間をつくるということをシミュレーションで考えました。そのようにエアコンがなくても風の流れによって快適な空間をつくるというのも、これは日本の伝統的建築の中で今まで培われてきた大きな知恵なので、その知恵をもう1回、現代に再生しようと考えました。 そのときに大事なのはちゃんと風を計算してシミュレートすることなんですが、夏の南の風はひさしによって観客席のほうに下りてくる。夏はだいたい東京は南西の風が多いんですが、その風は観客席のほうに下りてくる。で、冬は東京は北東の風が多いんですが、それが観客席に下りてくると困るので、北東の風は上のほうに抜けていくように、そういうふうにこのひさしはデザインされています。