ガザの惨劇 哲学者・鵜飼哲が語る「大量殺戮の時代」の核心【倉重篤郎のニュース最前線】
「関連して言うと、我々はハマスについての知識が薄すぎる。1987年に結成されたパレスチナ解放運動の一番若い組織で、指導者崇拝を避けるため交代制、任期制で指導部の一新を図るなど、パレスチナ解放運動の過去の誤りの一定の反省を踏まえている。イスラエルがPLO弱体化のために育てた側面もある。米国が対ソ連戦略のためアフガニスタンでアルカイダを育てたのとやや似た関係だが、ひたすらパレスチナ解放のためにイスラエルと闘う組織で、いわゆる『国際テロ』とは無縁だ」 ICJはどう見る? 「アパルトヘイト(人種隔離政策)で苦しんだ南アフリカが音頭を取って、国際法を平等に適用しようという流れが出てきた。この戦争を終わらせるための十分条件ではないが、重要な貢献になっている。国際法をどう実効化するか。軍事力が強い国の意志に世界が従う時代を終わらせるためには避けられない課題だ」 ◇イスラエルこそユダヤ人にとっての危険 日本への教訓は? 「日本国憲法の平和主義は、武力行使や武力による威嚇を禁じた近現代の国際法の実効性が発揮されればされるほど価値が高くなる。侵略戦争をすれば犯罪者として処罰されるという恐れを大国の指導者が抱くようにならないとその方向には進まない。日本では憲法と国際法の関係をこれまであまり重視してこなかったが、国際法が改善され実効性を持つようになれば9条の思想は生きてくるというつながりをもっと強調すべきだ。その流れの中で、日本人が国際刑事裁判の所長であることにも貴重な意義が認められることになる」 「パレスチナ国家の承認とジェノサイド条約への加盟が緊急の課題だろう。パレスチナ国家は世界で140カ国以上が承認している。それと同時に、国内の人権違反を国際法に準拠して防止するシステムを作るべきだ。そのためには国内法の整備が必要だ。赤根さんも日本について『ICC最大拠出国なのに人道に対する罪を裁く国内法がない。法整備を進めてほしい』と訴えていた。好戦的な米国に追随するのではなく、多極化する世界で多角的・全方位的外交にシフトすべきだ」