ガザの惨劇 哲学者・鵜飼哲が語る「大量殺戮の時代」の核心【倉重篤郎のニュース最前線】
イスラエル国内世論は? 「ここ数十年和平派の社会的発言力を削(そ)ぐために、日本の共謀罪よりはるかにハードな法規制が積み重ねられ、反戦運動はほぼ圧殺されてきた。むしろ宗教右派がユダヤ教の戒律の文字通りの適用を求めて力を増している。『ハアレツ』英語版はイスラエルの現状を示す世界にむけた窓のようなメディアだが、『今のイスラエルの政策は自殺的で破滅への道だ』という見方が増えている。10月7日以前にすでに、『将来のイスラエルがアフガニスタンのタリバン政権並みの宗教国家になる』ことを憂慮する見方が出ていた」 ◇軍事力に従う時代を終わらせるために 二つの国際機関、特にICCに注目したい。日本人で初めて所長になった赤根智子氏が先日来日し会見、「我々としては法の世界で正義を貫く、という姿勢を真っすぐに突き進め、他の方面の方々とも呼応した形で、最終的には平和な世界を目指すということに尽きる」と抱負を語っている。 「パキスタン系英国人のカリム・カーン主任検察官がすでに5人の逮捕状を請求、赤根さんら裁判官が逮捕状を出すかどうかを判断するという重要な局面だ。この裁判が仮に実現したらどうなるか。難民の子供であるハマス側の3人の指導者が被告席でどんな陳述をするかに全世界の注目が集まる。イスラエルの監獄を経験した彼らにとって、ICCのあるオランダ・ハーグの監獄など、ガザの地獄と比べれば天国だ。モサド(イスラエルの諜報(ちょうほう)機関)に暗殺される恐れもない。一方イスラエル側の2人には有罪判決は地獄になる。イスラエル国家の今までのやり方が通用しなくなり歴史的危機に陥るだろう」 「押さえておくべきは、ハマス側は先の1月の声明でICCに対し、10月7日の事態について公平な調査を求めていたということだ。それが全く報道されていない。ICCは国連からも独立した機関で、その協力関係は『国連と国際刑事裁判所の地位に関する合意』を締結することによって成り立っている(締約国は日本を含め124カ国)。米国とイスラエルは非加盟で、テロリストとされるハマスの方に、ICCから見れば、国際法規範へのリスペクトがより強く感じられるという、転倒した関係になっている」