古美術品マニアも巻き添え。密輸された古代エジプトの美術品を米国土安全捜査局が押収
10月上旬に提出された公文書によるとアメリカ政府は、ジョン・F・ケネディ国際空港を介して国内に運び込まれた古代エジプト時代の美術品14点を2020~2021年にかけて、密輸の罪で押収したという。 差し押さえられた美術品のなかには、エジプト末期王朝に作られたファイアンス陶器製のハトメヒト女神のお守り、新王国時代のエジプトの木製カノプス壺の蓋、そしてキプロス島で作られた容器が含まれる。これ以外にも、彩色された石灰岩でできた2つのシャブティ像や彩色された石灰岩のベッド像 、新王国時代に制作された石灰岩製のベッド型の像、紀元前664年~紀元前30年に作られた2体の男根像、初期王朝時代以前に制作された壷、紀元前3000年~2600年の間に制作された取っ手付きの壷が押収されたほか、アラスカ州アンカレッジでは、葬祭に用いられた推定価格600万ドル(約8億9800万円)の像も差し押さえられている。公文書をまとめた国土安全捜査局(HSI)の捜査官、アーロン・クラインによると、押収された2つの遺物を特定するにあたって、エジプト美術史家と2名のキュレーターに助言を求めたという。 これら美術品の密輸には、バンコクと香港の海運会社3社、アメリカ在住のeBayユーザー2人、そしてカナダのギャラリー経営者が関与していた。そのうちの一人である古美術品蒐集家のマーク・レーガンは、税関・国境警備局(CBP)が差し押さえた14点のうち8点を購入したことを認めており、ARTnews US版の取材に対して次のように語った。 「入念に下調べをしたのにもかかわらず、だまされてしまいました。購入する前に質問もしたんです。eBay側は出品者が誰なのか、そして出品者への連絡方法を購入者に明かしていないので、直接会話をすることはできません」 ファイアンス陶器で作られたお守りは、「イギリスに住む年配のコレクターから、カウンティー・フェアのオークションを通して購入したと記憶しています」とレーガンは語る。お守りはイギリスから発送されたなか、他の7つの美術品は、テキサス州サンアントニオに在住しているとされるeBayのユーザー、「CENTURYART」から購入したという。 「いくつかは贋作でもいいという思いで購入しました」とレーガンは話しており、購入した8つの美術品は総額2000ドル(約30万円)に上るという。「仮に本物だとしたらかなりお買い得ですしね」 HSIのクラインが提出した文書によるとレーガンは、CENTURYARTのアカウントの所有者であるシルビア・イヴェット・バレラと何度もやり取りし、美術品の出どころを尋ねたという。また、美術品が作られた年代をバレラが把握していた様子はなく、彼女は父親から譲り受けたものを販売しているとレーガンに語っていたようだ。 「自身が扱っている作品がどんなものなのか彼女は理解していないと当初は思っていたので、密輸業者ではないと推測していたのです。でも、蓋を開けてみるとタイから届けられた作品であることが発覚しました」 2020年9月17~22日の間に、木製のカノプス壺、キプロス島で作られた容器、3つのウシャブティ、4つの人形、そして王朝以前の壺がCENTURYARTSからメリーランド州エッジウォーターのレーガンの家に発送された。これらの美術品が米国に到着した後、CBPが検査を行い、さらなる分析を実施するためにニューヨークに移送したという。 「学芸員による調査の結果、運び込まれた荷物はエジプトで作られた古代遺物であることが判明した」と、クラインは記している。「いずれの荷物にも、品物が古代遺物であることを示す書類や、その由来や起源を説明する書類は含まれていなかった」 彩色された木製のウシャブティの箱を特定する際に学芸員は、メリーランド州ボルチモアのウォルターズ美術館に収蔵されているものと比較したとクラインによる公文書には記されており、レーガンが購入した容器は、ボストン美術館に収蔵されている遺物と比較し、判別を行ったという。 CBPの調査が終わったのちに、遺物の来歴を示す書類がなかったことから、購入した8点の作品が政府によって押収された。 今回の騒動を経てレーガンは、インターネットを介して古美術品を購入する際の心持ちが変わったと語る。「海外から送られてくる品物に手を出すことはやめにします。おそらく税関で荷物が開かれるでしょうし、適切な書類がなければ没収されてしまいますから。これからはエジプトの古美術品に手を伸ばしづらくなってしまいそうです」(翻訳:編集部)
ARTnews JAPAN