京アニ放火殺人、青葉被告の再犯防止支援は「やれることはやっていた」のに、なぜ防げなかった? 犯罪学の研究者が語る「刑務所の実情」
―青葉被告は放火殺人事件の後、献身的な医療者らによってやけどの先端医療を受け、「死亡率95%」という状況から救命してもらいました。 病院の中ですごく信頼できる医師や看護師がいて、話もできたと言っていましたね。彼の場合はすごく特殊な経過をたどったと思います。身柄を拘束されるまでの間に、医療者とのかかわりがあり、人間関係について自分を客観的に見つめる時間があったということでしょう。たいていの容疑者や被告は、裁判までにそうした状況に置かれることはありません。 ―公判には、被害者参加制度によって複数の遺族が参加しました。遺族の問いかけに、青葉被告は「申し訳ない」と口にする場面もありましたが、“逆ギレ”する場面もありました。 こういうことがあります。元受刑者に「公判の時に被害者がいらっしゃっていましたが、覚えていますか?」と聞くと、ほとんどの人は「覚えていない」と答えます。自分がこれからどういう刑罰を受けるか分からない緊張状況のなかで、適切なコミュニケーションを取ることには難しさがあるのだと思います。
―また被告には、裁判長に制止されても話し続けるなど、対話というよりモノローグ(独白)の印象がありました。 これまで、自分の話をきちんと聞いてもらえた意識が乏しいんでしょうね。そういう人にとって、発言の機会が来た時に「今、しゃべらなきゃ」となってしまう。ある種の強迫観念だと思います。 ▽「被害者支援庁」をつくれないか 私の研究者としてのキャリアは、被害者と加害者の関係を重視する「修復的司法」から始まっています。最初に研究したのは英国の制度でした。 英国が被害者と加害者の“対話”を組み込んだ制度を作りました。導入前は、ただ対話場面をつくれば何か良いことがあるんじゃないかと考えられていたんですが、実際には対話以前のことが重要だったのです。 対話までに、(1)支援者が、被害者・加害者双方とかなり密なコミュニケーションを取る(2)両者がちゃんと対話に向き合えるような生活のサポートがある、これらのことがあって初めて、不安なく自主的な対話に入れるようになります。