「国民の大半が政府メディアを信用」──亡命したロシア独立系メディアが伝えるウクライナ侵攻
リガに避難してもなお、彼女は「バイカルの人々」の編集と更新は続けている。ジャーナリストの多くも地元に残り、現在匿名で活動しているという。
最大の問題「ロシア国民の大半が政府メディアを信用」
1年近く続く侵攻の下で、ロシア国内の言論の自由は奪われる一方だ。国内で大きな反戦のうねりが起きているわけでもない。少なくとも9月の動員令までは、多くのロシア国民は大して変わらぬ日常を送っていた。 そうしたなかで、スミルノヴァ氏は独立系メディアの限界を感じることがある。 「おそらく、一番の問題はロシア国民の大半が政府のメディアを信用しているということです。2022年夏、レヴァダ・センターというロシアの非政府系研究組織が行った調査では、政府メディアが一番信用されていて、メドゥーザのような外国を拠点とするロシア語の媒体を信用する人の割合はたった4%でした。独立メディアに対する政府の長年の圧力とプロパガンダによる結果です。ロシア国民の大半が、自ら情報を積極的に取ろうとしていないことも原因の一つでしょう。つまり、国民の大半がテレビで娯楽番組やドラマを見て、そのまま惰性でニュースを見ながら情報を消費しているということです」
トリフォノヴァさんは、東シベリアの地元住民についてはこう語った。 「確かに大半はテレビを見てる。向こうにはインターネットがない村さえあるけど、テレビはどこにでもあるんです。政府が衛星テレビ用のアンテナをあちこちに設置する政策を実行したから、インターネットや新聞がないような田舎でもテレビがある。チャンネルは少ないけど、政府のチャンネルがあるから、プロパガンダは隅から隅まで行き渡っているんです」 そして彼女は次のように締めくくった。 「そういう地域から男たちが戦場に行くっていうことです。インターネットもお金も仕事もない、小さな貧乏な村から」 ウクライナ戦争におけるブリヤート共和国出身の戦死者のうち、首都ウラン・ウデから戦地に赴いた者は共和国全体の30%で、残りの70%は、さらに貧しい、小さい村々の人たちだった。 「まるで村の戦争みたい。村が“肉”の塊を(ウクライナに)送っているのよ。だからモスクワの人たちなんか『自分の周りじゃ、何にも起きていないって』感じる時があるのよ」 ----- 桑島生(くわじま・いくる) 1984年茨城県生まれ。高校卒業後、米ミズーリ大学でジャーナリズムを学ぶ 。以降ウクライナ、カザフスタン、ロシアなどと拠点を変えながら、報道、写真などの分野で活動する。ウクライナ侵攻を機に9年間拠点としていたロシアを去った。 [写真監修]リマインダーズ・プロジェクト:後藤勝