「国民の大半が政府メディアを信用」──亡命したロシア独立系メディアが伝えるウクライナ侵攻
テレグラムでは、使用者が自分のチャンネルを開設し、大量の購読者にテキストメッセージで情報を送ることができる。この機能に着目したのは、メドゥーザなどの独立系メディアだけではない。ブロガーやロシア政府寄りのメディア、ウクライナのメディアも積極的に使用している。
弾圧を逃れ、シベリアからラトビアへ
「私はここに来た時、スーツケースの中にはシャツが3枚しかなかったの」 はるか遠く、シベリア東部からラトビアの首都リガへ来た時の様子を、エレナ・トリフォノヴァさん(45)は、そんなふうに語り始めた。 彼女は、バイカル湖周辺のイルクーツク州とブリヤート共和国をカバーする小規模の独立系オンラインメディア「バイカルの人々」の編集長だ。モンゴル北部と接するブリヤート共和国には仏教徒のアジア系ブリヤート人が多く住んでいる。 ウクライナ侵攻後の2022年春、彼女のサイトはブリヤート共和国の小さな町や村の様子と侵攻に関する記事を掲載した。多くの男たちが侵攻に動員されたという内容で、記事はメドゥーザだけでなく海外メディアにも転載された。ロシア兵の多くは貧困に苦しむ地方の出身で、少数民族の割合が高いという実情を広く知らせるきっかけになったニュースの一つだ。 「戦争が始まった時、いくつかの村では若者のほとんどが戦争に行ってしまって、その後、たくさんの戦死者が出たということもありました。それについて書いたら、政府はそれがすごく気に入らなかったってこと」
4月中旬になると、「バイカルの人々」は、「フェイク」を拡散してロシア軍の信用を傷つけたという理由で、ロシア国内からのアクセスを遮断された。しかし、VPNを使ってサーバーを変えたり、テレグラムを使ったりと、いくつか抜け道があったため、読者は逆に増えていったという。 リスクを負いながらも、トリフォノヴァさんはその後も仕事を続けていた。状況がさらに悪化したのは、9月に動員令が発令されてからだ。彼女が同僚と共にデモに参加すると、すでに当局の監視下に置かれていたこともあり、警察に捕まってしまった。いったんは自宅に帰れたものの、すぐに秘密警察のFSB(連邦保安局)が「バイカルの人々」編集部を捜索するに至った。その時点で、トリフォノヴァさんは国外への脱出を決意する。 「かなり危険になったから、国外脱出しかなかったの。牢屋には入りたくないから」