オープンイノベーション、大企業は成功への旅路をいつまで続けるのか
P&Pはスタートアップへの投資加速、AT PARTNERSは骨太オープンイノベーション推進 そこで、P&Pは日本でスタートアップへの投資を加速させる。フィンテックやヘルスケア、フードテックなど8つの業種で、グローバル展開できる法人向け(BtoB)のシードステージ(会社設立前後の段階)のスタートアップを対象に、1社当たり平均1000万円を投資してきた。約4年間に21社に投資したが、2025年に新たなファンドを立ち上げることを検討している。Vincent氏は「これまでのバランスシート投資では投資額が限られている」と話す。スタートアップと関わる範囲を広げ、創業の早い段階に投資し、日本からユニコーンを生み出すことをもくろんでいる。 大企業のイノベーションを支援するAT PARTNERS 代表取締役の秋元信行氏は、「日本の国際競争力が徐々に落ちている。大企業が元気にならないと、競争力は上がらない」との信念から、“骨太なオープンイノベーション”推進の1つとして、「ファンド・オブ・ファンズ投資」を始めた。秋元氏によれば、日本企業がグローバルでトップレベルのスタートアップに早い段階からリーチするのは容易なことではない。とはいえ、スタートアップの企業価値が上がってから付き合い始めていたら、技術やアイデアの取り込みに出遅れる。 手っ取り早いのが、初期段階から投資家として伴走するベンチャーキャピタル(VC)と付き合うことだという。AT PARTNERSが大企業から資金を集めて、代表してそのようなVCのファンドに出資する。その数はGeneral CatalystやNew Enterprise Associates(NEA)など約30に上る。実は、事業会社からの出資をあまり受け入れたくないVCもあるという。年金基金など機関投資家から十分な資金を集めており、それに比べた小口な投資には魅力を感じないだろう。 一方、戦略的リターンを期待する事業会社には有望なスタートアップの情報提供や紹介などを求める。VCは事業会社への支援ではなく、スタートアップの成長支援に全力を注ぎたいため、手間暇かかることは可能な限り避けたくなるだろう。 そこにAT PARTNERSがより多くの有望なスタートアップにアクセスを可能にするファンド・オブ・ファンズ投資を始めた狙いがある。大企業が新たな事業計画の作成に当たってどのようなビジネスを展開するのか、そのために必要な製品やサービスを開発するにはスタートアップなど外部の力が必要になる。AT PARTNERSが支援するのは、技術を持つスタートアップを世界から探し出し、協業に導くこと。そして概念実証(PoC)から商用化へと進展させることもある。VCの投資先だけではなく、同社が構築した約350万社のスタートアップなど先進技術会社の事業内容から経営者らの経歴、投資先などの情報を収集したデータベースも活用するという。 Vincent氏は「企業文化やマインドセットなど乗り越えるべき課題は幾つもある」と指摘する。それを一つ一つクリアしていくことも必要であるが、経営者が明確なオープンイノベーションの方針を指示、つまり戦略目標や期待する成果を、実行組織・社内に示さなければ前には進められないのだ。 田中 克己 IT産業ジャーナリスト 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。