サブカル文脈から読み解く2010年代以降のアイドルシーン、BERLING少女ハートとゆるめるモ!
成長期の女の子が出そうで出ない声を歌うことによる美しさ
タナトスとマスカレード / BELLRING少女ハート 田家:BELLRING少女ハートの2015年に発売になった、「タナトスとマスカレード」6曲入りの『13 WEEKS LATER EP』というEPの中の曲ですね。 西澤:これはかなりコンセプチュアルなEP。 田家:タイトルもコンセプチュアルですからね(笑)。 西澤:田中さんが映画も好きで、『13週間後』っていう映画からインスピレーションを受けて作ったな作品なんです。この曲が1曲目なんですけど、かなり世界観が強い。 田家:かなりダークなファンタジーですもんね。 西澤:そうですね。ハッピーエンドは見えないというか。 田家:これを少女が歌うということに、ある種の美意識があるんでしょうね。 西澤:それはすごい感じていて。田中さん自身はあまりそういうことを語らないんですけど、そもそも衣装が黒いセーラー服にカラスの羽をつけたというところも面白い。 田家:セーラー服にカラスの羽。黒が多いですもんね。BELLRINGと名前は、なにか意図があるんでしょうか? 西澤:初期のライブのときに必ず大きいワンマンのときにはステージの後ろに壁が作られていて。 田家:ベルリンの壁。 西澤:そこを突き破ってメンバーが出てくるみたいな演出もしていた。 田家:なるほど、こだわっていますね。 西澤:そこには確実に田中さんの中の作りたい世界観、美意識というのがあって、それをすべて反映させてアウトプットしているんだと思うんですね。 田家:ベルリンが、ある種の時代の象徴だったことがありましたからね。取り囲まれているとか、封じ込められているとか、ベルリンのスタジオで撮っているデヴィッド・ボウイのアルバムがあったりみたいな。ダーク・ファンタジーの傑作アルバムってその頃生まれているわけで、そこの流れなんでしょうね。 西澤:それは絶対にあると思いますね。海外の影響は。 田家:初めてのライブが中野っていう話がありましたけど、中野WEST END STUDIOという、やっぱりあまりメジャーじゃないところからライブをやっている。対バンをしているメンバーの中ではBiSがあったり、この後ご紹介していただく、ゆるめるモ!も随分ありましたよ。 西澤:ゆるめるモ!とはよく2マンだとか、それこそお互いの曲をカバーするようなこともして、会場限定のCDも発売していたので、かなり近い存在だと思います。 田家:ライブの話がさっきちょっと出ましたけども、ライブ中にメンバーが骨折したとか、強制終了をさせられたとか、屋内会場を飛び出して外で歌ったとか、警備員とファンが喧嘩になって音が止められて、アカペラで歌ったとか。 西澤:ファンの方たちも含めてかなり熱狂的な現場でしたね。 ぼくらは生きてる / BELLRING少女ハート 田家:BERLING少女ハートの2016年に発売になった曲で「ぼくらは生きてる」。3枚目のアルバム『BEYOND』の中に入っておりました。おもしろい曲ですね。 西澤:この曲には、僕もすごい思い入れがあって。ある日田中さんから電話がかかってきて、都内近郊でモノを壊す音を録れて、お客さんも入れられる場所ないですか?と。たまたま当時取材していた、千葉の工場地帯に、改造したレコーディングできる場所があったので、そこでやりましょうって言って、お客さんを入れて。とにかくみんなものを持ってきてもらって、コンクリートに叩きつけて、その音を見ながら録るってことをしたんです。そのまま、そこのスタジオでヴォーカルの歌録りをした。そういう経緯があってできた曲なので、僕もすごい思い入れもあって(笑)。 田家:お客さんの歌声も入っていませんでした? 西澤:モノを全部壊した後に全員でコーラスをして、それを録ったんです(笑)。 田家:モノを全部壊した後に(笑)。 西澤:単純に今聴いていて、この歌をオッケーするメジャー・レコード会社はない気がしますよね(笑)。 田家:運営、田中さんの方から自分たちがやりたいこと、やっていることはメジャーでは理解されるわけがないと思っていたのかもしれないですね。 西澤:ヴォーカルも補正されて、もうちょっとキーとかピッチを合わされちゃうんじゃないですかね。 田家:たしかにね。生々しいですもんね。 西澤:田中さんは、成長期の女の子が出そうで出ない声を歌うことによる美しさみたいなものとか、そういうものを表現したかったのかなと僕は感じてはいますね。 田家:小室哲哉さんみたいじゃないですか。あの人のガールズ・グループ、女性アーティストをプロデュースするときはそれですからね。 西澤:そこはもしかしたらちょっと考え方が近いのかもしれないですね。 田家:すごいなあ。そういう人がやっぱりいるんですね。2016年に活動を休止して、2022年に結成10周年で新メンバーを募集して、今も活動している。 西澤:メンバーは全く変わってしまったんですけど、新曲も作ったりしながらライブ活動をしているところですね。