サブカル文脈から読み解く2010年代以降のアイドルシーン、BERLING少女ハートとゆるめるモ!
ドイツのグループ、ノイをモチーフにしたアイドル曲
ちゅ、多様性。 / ano 田家:後半はゆるめるモ!なのですが、今流れているのはゆるめるモ!ではなくてano。anoの「ちゅ、多様性。」。去年の紅白でも歌われた歌で、レコード大賞で特別賞をもらった曲であります。彼女が元ゆるめるモ!だった。BiSHのアイナ・ジ・エンドと並んで、この10年間の地下出身の成功アイコンの1つになりましたね。 西澤:こういう形で2020年代活躍されているというのは驚きましたけど、でもちゃんと実力があった子たちだったので、しっかり評価されてよかったなと思いますね。 田家:ゆるめるモ!の結成が2012年で、そのときにはあのちゃんはいないんですよね。 西澤:はい。途中のメンバーオーディションであのちゃんは加入したので。 田家:BiSHもBERLING少女ハートもももクロがきっかけだったわけですが、ゆるめるモ!もそうなんでしょうか? 西澤:ゆるめるモ!のプロデューサーは、田家大知さんという方で。僕は大知さんと付き合いが長いんですけど、お父様が文筆業をやってらっしゃってという話をされていたので、もしやとずっと思って、「J-POP LEGEND FORUM」時代からラジオを文字起こしをさせていただいていたんです。あるとき田家秀樹さんとご飯に行かせていただいたときに、息子さんが、この田家大知さんなんだということが発覚して、やはり!と思って、すごいびっくりしたというか。 田家:実は僕の方もやっているのは知っていたのですが、あまり詳しいことを知らなくて。年に1、2回ぐらい家族で来るんですけど、全然そういう話をしてくれなかったので。僕も時々Twitterを見て、え、こんなことやってるんだと思ったりしたのですが、ももクロがきっかけだったんですよね。 西澤:そうですね。大知さんの方は世界一周を巡る旅に出ていられて。 田家:9カ月くらい行ったんじゃないかな、もっと行ったのかな。 西澤:世界のいろいろなカルチャーと触れ合っていく中で、どこかのタイミングでももクロのライブを見られたんですよね。それが1つのきっかけになって、こんなことができるんだという着想点になったみたいですね。 田家:街頭スカウトでメンバーを集めたという話はどこかで聞いたことがありましたね。 西澤:原宿と秋葉原で道行く女の子に、アイドルをやりませんかって声をかけてスカウトしていました(笑)。 田家:お前怪しまれないのかって言ったことがありましたよ(笑)。 西澤:僕も気になって、竹下通りで声をかける様子を取材させてもらったんですけど、苦戦しながらも、どうしてもグループをやりたいんだと訴えかける熱意はすごかったですし、それに賛同する子が最初は集まっていたんだと思いますね。 田家:西澤さんが選ばれた今日の1曲目、ゆるめるモ!1曲目です。 SWEET ESCAPE / ゆるめるモ! 田家:ゆるめるモ!の2013年9月に発売になった初めての全国流通ミニ・アルバム『New Escape Underground!』から「SWEET ESCAPE」。10分以上ある曲ですね。 西澤:すごいですね、あらためて聴くと展開がないままずっとこれが続いていく。 田家:KRAFTWERKみたいだなと思いましたけどね。 西澤:たしかに。実際、オマージュがあって、ノイっていうドイツのグループの楽曲をモチーフにしていて、基本的に、アルバムというかジャケット画像もトーキング・ヘッズだったり、スペシャルズだったり、WEEZERだったり、海外のバンドのジャケットをオマージュしたものが多い。それを見るだけでも、みなさんニヤリとするんじゃないかなと思いますね。 田家:アルバムのタイトルが『New Escape Underground!』で、これは僕も今回初めて気がついたのですが、このNewとEscapeとUndergroundの頭文字をとると、NEUでこれがドイツのノイのグループ名の表記なんですね。僕、ノイを知らなかったので(笑)。 西澤:そういう遊び心というか、オマージュというか、リスペクトを感じる人ですね。田家大知さんが作る作品は。 田家:Escapeというのは当時のゆるめるモ!の1つのキーワードになってた? 西澤:この後紹介する曲もそうですけど、つらいこととか、苦しいことがあったら逃げてもいいんだよということは、ゆるめるモ!として田家大知さんが伝えたいメッセージの1つだったのかなと思いますね。 逃げろ!! / ゆるめるモ! 田家:ゆるめるモ!の2013年に発売になった「逃げろ!!」。『New Escape Underground!』に収められておりました。コンセプトが、逃げろ。 西澤:田家さんは世の中に対するメッセージだけじゃなく、メンバーに対しても否定はせずにその子を理解しようと話を聞いていて。その子の個性を伸ばすためにどうするかというのをすごく丁寧にコミュニケーションをとられていた印象があって。自分の得意なことを全力でやる方がいいんだよ、本当につらいことから逃げてもいいんだよということは、周りにいる僕にもすごく伝わってくるメッセージでしたね。 田家:2017年のアルバム『YOUTOPIA』の中に「逃げない!!」という曲がありましたね。 西澤:この頃はあまり取材できていなかったんですけど、「逃げろ!!」の対極になるようなタイトルをつけるというのはびっくりしたんですけど、逃げずに全部背負えということではないとは思うんですね。根底に逃げてもいいんだよというのはありながらの反語なのかなとは受け取っています。 田家:自分たちの音楽が、逃げないというときの1つの支えになるといいなみたいなことではあるんだろうなと思いましたけど、いろいろな人たちとコラボをやっているでしょう。 西澤:作曲面でもし、ライブでもそうですけど、いろいろなミュージシャンの方とコラボしていますね。非常階段を始め、ギターウルフ、ヒカシューとか、水曜日のカンパネラ、ベルハーというのはライブでよく対バンしていましたし。 田家:後藤まりこさんとか大森靖子さんとかね。 西澤:箱庭の室内楽とか、それこそSUPERCARのナカコーさんも曲を作ったりとか、いろいろな方が作っていますね。 田家:ムーンライダーズのトリビュート・アルバムが出るので見ていたら、ゆるめるモ!が入っていたんですよ。「9月の海はクラゲの海」。 西澤:あれはいい曲ですよね。 田家:ええ。こんなことやってるんだと思いましたけど(笑)。 西澤:僕は当時を知らないですけど、はっぴいえんどとかああいう中におけるムーンライダーズの立ち位置と、地下アイドルの立ち位置としてゆるめるモ!は近いのかなと思いますね。 田家:でんぱ組ともBiSともBiSHともBERLING少女ハートとも違うところにはいるんですかね。 西澤:ベルハーとかはもうちょっと衣装だったり、ステージングとか、総合芸術感をすごい感じるんですけど。ゆるめるモ!の根底は楽曲に重きを置いている印象がありますね。