【医療的ケア児】保護者は「夜中も2時間おきに介護→熟睡できないまま出勤」の日々…なぜ18歳未満は「法律上、重度訪問介護の対象外」なのか
遠因ながら、実は「すでに支援対象の人」からの反対も
医療的ケア児が重度訪問介護を利用できないことにより、家族は疲弊の極致にあります。痰の吸引などのために夜中も1~2時間に1回起きなければならないこともあり、熟睡もできないまま、生活のために日中はフルタイムで働いている方が多くおられます。これを1日、1週間ではなく、365日続けている。しかも期間は限定ではなく、ずっと、です。 こうした現状がありながらも、ご家族の睡眠時間の確保や就労も含めた積極的な社会参加を実現する可能性がありながら、18歳未満の重度訪問介護の利用は相変わらず認められていないわけですが、そこには省庁の管轄問題に加え、今まで様々な制度変革を実現してきた障害当事者団体の要望が、その強度においてまだ十分とは言い難いからだとも考えられます。 重度訪問介護は2006年に始まり、身体障害者が長時間の介護サービスを受けられる体制が徐々に整っていきましたが、2014年には知的、精神ならびに身体障害当事者団体の強い要望により、利用対象が知的・精神障害者に広がりました。 当事者団体の強い要望が、国が政策を決める際に重視されることは今年度の報酬改定を見ても明らかです。2024年の訪問介護分野における報酬改定では、高齢福祉分野で単価が下がったのに対し、障害分野では単価がアップしました。サービス内容・時間・資格が同等であり、かつ総予算としては高齢福祉分野が1.59%のアップと、障害分野の1.1%を大きく上回ったにもかかわらず、これだけの開きが出たわけです。 この背景には厚労省や財務省など省庁の意向のみならず、高齢福祉分野と障害分野の発言力の違い、すなわち障害当事者団体の存在が少なからずあるのではないかと思われます。 個人的には、若かりし日に身体障害当事者団体の全国組織の事務局を務めた経験があり、その際に目撃した障害当事者の発言力と社会を動かす力は驚嘆するものがありました。障害者自立支援法の改正、知的精神障害者への重度訪問介護の対象者拡大、そして就労中や入院中の重度訪問介護の利用を可能にすることなど、不可能を可能にする場面を幾度となく目撃してきた私にとって、障害当事者の社会を変える力はまさに「奇跡」ですらあります。 こうした中で、医療的ケア児に対しては当事者団体から積極的に要望を打ち出せていない感もありますが、2014年に重度訪問介護の利用対象を知的・精神に広げるという話が持ち上がった際にも、実は極めて例外的にではありますが、「知的障害者を対象にすると自分たちに支給される分が減ってしまう」という理由で、その改正に反対した身体障害当事者団体が皆無だったわけではありません。 そうした事実を見ても、「医療的ケア児の法律ができることで、自分たちの得た24時間サービスを受けられる権利がなくされてしまう」という不安を、すでにサービスを受けている当事者の団体が抱いていないとも限りません。ただ、この不安は「利己的」といって断罪できるようなものではまったくなく、特に重度障害当事者にとって重度訪問介護の支給時間は生命線でもあるわけで、この不安はむしろ人として自然な心理的反応と思われます。しかし、この不安が、あえて積極的な強い要望として表されないという形で、医療的ケア児に対象範囲が広がらない遠因になっている可能性は否めないのではないかと個人的には思われます。