楽天モバイルとSIMフリーにも販路広がる、FCNT「arrows」を巡る各社の思惑
中国レノボ・グループ傘下となって復活した国内メーカーのFCNTが、スマートフォン新機種「arrows We2」と「arrows We2 Plus」を今年5月に発表。その発売が間近に迫った8月8日、同社は改めて発表会を実施し、5月の時点では明らかにされていなかった販売戦略について説明している。 【画像】楽天モバイルは「arrows We2 Plus」を4万9,900円で販売すると発表 ■新機種「arrows We2」シリーズの販売戦略を明かしたFCNT 今回の新機種は、すでに携帯大手2社からの発売が発表済み。arrows We2 PlusはNTTドコモから、arrows We2はNTTドコモとKDDIの「au」「UQ mobile」ブランドから販売される。前者は8月9日、後者は8月16日以降順次発売されるとのことで、ようやく復活したFCNTの新製品が市場に投入されることになる。 だが今回の発表会では、両機種の新たな販路も複数打ち出されている。その1つが楽天モバイルであり、同社はarrows We2 Plusを10月15日に発売することを明らかにしている。 楽天モバイルは携帯電話事業者として参入を打ち出した2019年に、FCNT(当時は富士通コネクテッドテクノロジーズ)製の「arrows RX」を販売したことがあるが、それ以降FCNT製品は扱っていなかった。それゆえ、同社がFCNT製品を扱うのはかなり久しぶりのこととなるのだが、それだけに販売には力を入れているようだ。 実際楽天モバイルは、arrows We2 Plusを4万9,900円で販売するとしている。NTTドコモのオンラインショップでの販売価格は6万2,150円であったことから、それより1万円以上安い価格で販売しようとしている点からも、力の入れ具合を見て取ることができるだろう。 なぜ楽天モバイルは、FCNT製品を再び取り扱うに至ったのだろうか。発表会に登壇した楽天モバイルのビジネス推進本部 デジタル戦略部 副部長である佐々木愛氏は、同社が現在力を入れている割引サービスとの相性の良さを挙げている。 楽天モバイルは2024年に入り、「最強家族プログラム」「最強青春プログラム」「最強こどもプログラム」と、家族契約などによって料金が安くなる割引施策を相次いで提供。同社はそれまで一般消費者の獲得に苦戦していたが、一連の割引を契機として消費者、とりわけ家族の獲得を伸ばしているようで、6月16日には携帯電話回線の700万契約を突破している。 そこで、さらなる家族契約獲得のためにも、販売する端末のラインアップを増やすことが求められていたといえるだろう。実はここ最近、楽天モバイルが取り扱うスマートフォンのメーカーが減少傾向にあり、米アップルのほかはシャープとソニー、そして中国のOPPOくらいとなっている。韓国サムスン電子も2024年に入ってからは端末供給をしておらず、最近人気となっている米Googleの「Pixel」シリーズも、携帯4社の中で唯一楽天モバイルだけ取り扱いがない。 そうしたことから楽天モバイルは、契約拡大のためにもスマートフォンのパートナーを欲していたといえ、復活して間もなく、信頼回復のためにも販路拡大を求めていたFCNTとの距離を近づけたといえそうだ。佐々木氏はarrows We2 Plusの高い堅牢性や、自律神経測定など健康に注力した機能が子供やシニアに適していると話しており、家族契約の拡大で幅広い層のニーズに応える上でも、FCNTは非常に適した存在と見ている様子がうかがえる。 もう1つ、FCNTが新たな販路として打ち出したのが家電量販店などのオープン市場、いわゆる「SIMフリー」である。同社は今回発売する2機種をともにオープン市場向けに投入するとしているが、同社がオープン市場向けにスマートフォンを投入するのも、やはり2019年の「arrows M5」以来である。 そしてオープン市場の参入にあたって、FCNTがパートナーシップを結んだのがインターネットイニシアティブ(IIJ)である。IIJはMVNOとしてモバイル通信サービス「IIJmio」を提供する大手であり、非常に多くのSIMフリースマートフォンを取り扱っていることでも知られている。 それだけにFCNTも、オープン市場への再参入にあたってはIIJと議論を重ねたというが、そこで打ち出されたのが、RAMを12GBに増量したarrows We2 PlusのIIJ限定モデルである。こうしたモデルを投入した背景には、オープン市場でスマートフォンを購入するユーザーの多くがスマートフォンにとても詳しく、高いコストパフォーマンスを求める傾向が強いことが影響しているようだ。実はarrows We2のSIMフリーモデルもストレージを128GBに増量するなど、スペックアップして販売されるという。 ただ、FCNTのプロダクトビジネス本部 副部長である外谷一磨氏は、オープン市場への参入が既存のメーカーのパイを食うためのものではなく、オープン市場自体のパイを広げるためのものだとしている。 FCNTのスマートフォンは、1.5mの高さからコンクリートに落としても画面割れしにくい堅牢性や、ハンドソープでも洗える防水性能、迷惑電話対策機能、そしてarrows We2 Plusに搭載された自律神経測定機能など、性能や値段などといった尺度での評価が難しい機能や性能に力を入れてきた経緯がある。だが先にも触れたように、オープン市場のユーザーは性能と価格を非常に重視する傾向にあることから、そうした特徴にあまり目が向けられない。 だがそれだけに、FCNTのスマートフォンが既に実現している機能が「あったらいいな」と思っている人は意外に多くいると、外谷氏は説明。オープン市場へあえて参入することで、そうした人達にFCNTの特徴をアプローチすることで認知を高める狙いもあるようだ。 また外谷氏は、オープン市場への参入でスマートフォンの2台目需要を開拓する狙いもあると話している。1台目のスマートフォンはブランド力と企業体力がものを言う状況となっているだけに、健康管理などの機能をアピールして2台目のスマートフォンとして購入してもらい、認知を高めていくという戦略は理にかなっているだろう。実際、外谷氏はは2024年度内に「らくらくスマートフォン」の新機種を投入することを明らかにしており、強みを発揮しやすいニッチ向け端末の積極展開は期待されるところだ。 ただここ最近、国内のスマートフォン市場では、2台目需要も意識してニッチ要素に重点を置いたスマートフォンが相次いで撤退したり、提供の危機に瀕したり、生き残りのためニッチからマス重視に転換したりするなど、非常に厳しい状況に追い込まれている。それだけに2台目需要に注力し、ニッチを追及する戦略にはリスクもある。そのため、マスとニッチのバランスをいかに取るかが重要になってくるだろう。
佐野正弘