【尹大統領独占インタビュー】戒厳令48日前に見せた焦り...「私にはもう十分な時間がない」
地域間の格差が拡大
──世界の注目は韓国と北朝鮮の関係に集まっている。しかし、あなたは国内の改革のほうに時間を取られているようだ。 外交政策と国内改革は1枚のコインの裏表だ。私は外交政策と国内制度を世界基準に適合させようと努めている。もし失敗すれば、韓国は国際社会から取り残されるだろう。 第4次産業革命の今、AI(人工知能)が台頭し、急速なIT化が進んでいるが、わが国の制度の大半、つまり労働、教育、年金、医療といった制度は、重工業を基盤とする工業化の過程で導入されたものだ。経済をさらに発展させ、国際社会の責任ある一員として貢献を果たすには、国内で構造改革を行う必要がある。 今しかないと思っている。これらの課題は、長年にわたって先送りされてきた。これまでの政権は不人気な政策を取ることを恐れていた。選挙で負けることを怖がり、とうにやっておくべきだったことを先送りし続けた。しかし、もう十分な時間はない。改革を永遠に先延ばしすることはできないのだ。 教育については、AIの発達やデジタル化のペースに合わせて、より実践的なものにする必要がある。医療では、都市化の進展によってソウル首都圏とその他の地域との分断が深刻な問題となっており、地域間の格差が拡大している。 労働制度については産業が変化・発展するなかで、労働市場への人材の供給方法だけでなく、既存の集団的労使関係制度を各分野に合わせたものに変え、より柔軟にすることが重要だ。労働市場で弱い立場にある人々への支援を強化する必要もある。 ──韓国で出生率が著しく低下している問題について聞きたい。あなたは愛犬家として知られるが、韓国の家庭では犬が子供に取って代わったと感じるか。 この問題を解決するには年金改革、労働改革、教育改革、医療改革といった(4つの主要な)改革が極めて重要になってくる。 教育改革では、新しい産業化の傾向に対応することが必要だ。また働く人々、特に女性がワークライフバランスや仕事と家庭のバランスを確保するために、未就学児や10代の子供を育てる上での公的支援を手厚くしなくてはならない。 労働改革では、出産を控えた人が仕事と家庭のバランスを取れるように、さらに柔軟な制度を実現する必要がある。医療改革では居住地にかかわらず、全ての母親と子供に医療サービスを提供することが重要だ。 年金は、これから親になる世代がいずれ退職を迎え、子供たちの未来を考えるときにも重要なものだ。そのため国民年金制度をより安定させる必要があり、実現すれば出生率の上昇につながるだろう。 ──男女間の格差が拡大している問題はどのように解決できるか。 ジェンダーの問題は、韓国の産業が急速に発展したことの副作用によってもたらされたもので、出生率の問題に似ていると考えている。ジェンダー格差が深刻化している根本的な理由は過度の競争だ。女性は労働市場で差別されていると感じている。 韓国社会の行きすぎた競争を解決することが重要だ。例えば結婚や子育てが女性の昇進やキャリアの障害にならないような、よりよい環境づくりが必要になる。 それによってジェンダー格差と低い出生率の問題の両方を解決できる可能性がある。しかしこれは文化や社会の空気、特に韓国社会における男性の認識の問題でもある。 ジェンダーの問題は、女性や家族福祉の問題を担当する省庁だけでなく、文化を担当する省庁も対処すべき問題だと考える。文化体育観光省を含めた韓国政府全体が、例えばメディア(でのジェンダーの扱い)をはじめとして、韓国社会の空気を変えていかなければならないと思う。 ジェンダーの平等について今より理解の進んだ空気を社会につくることも必要だ。この問題の解決には、多様な解決策を組み合わせた包括的で総合的なアプローチが要る。 こうした問題は30年前からあったが、歴代の政権は地方選挙や総選挙、自分たちの支持率のことを考えて改革をためらい、行動を起こさなかった。そのため30年にわたって問題が蓄積し、ますます悪化した。 もう私には選択肢はない。自分の支持率や総選挙の結果を気にしている余裕はない。私の大統領としての任期が終わる前に、この問題を解決しなくてはならない。 大統領としての私の責務は、GDPを何%成長させるかということではない。韓国経済の潜在力を引き出し、次の大統領、さらにはその後に続く大統領たちが韓国経済を運営していくための、真の推進力を提供することだ。