米津玄師、YOASOBI、Adoも心酔…電子の歌姫「16歳・初音ミク」が”世界を変えた"と言われる3つの理由
■なぜ初音ミクは若者から絶大な支持を集めるのか その後ブームは一時落ち着いたが、20年代に入ってボカロシーンは「新たな黄金期」というべき盛り上がりを見せている。先述した米津玄師やYOASOBI、Adoのほかにも、ヨルシカのコンポーザーのn-bunaやEve、須田景凪など数々のボカロP出身のアーティストがJ-POPのフィールドで活躍するようになったのだ。加えて特筆すべきは、初音ミクの登場から17年を経たいまも、ボーカロイドが10代や20代の若者たちを魅了するユースカルチャーであり続けている、ということだ。 その背景としては、20年9月にローンチし、サービス開始から約10カ月でユーザー数が500万人を突破したスマートフォン向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』の影響が大きい。 このゲームでは、初音ミクたちバーチャル・シンガーと、悩みや葛藤を抱えた少年少女のオリジナルキャラクターによるストーリーが展開される。リズムゲームのパートでは、過去に発表された数々のボーカロイド楽曲や、新規に作られた楽曲プレイできる。つまり、ゲームをきっかけに初音ミクを知った若いファンが、単にそのキャラクターだけでなく、たくさんのクリエイターが作った音楽やそのカルチャーの積み重ねを自然に体感することができるような設計になっている。 20年12月にドワンゴがニコニコ動画上でスタートさせた「TheVOCALOID Collection」も、シーンの活性化に大きな役割を果たした。 「ボカロの祭典」としてスタートしたこのイベントの大きな特徴は、オリジナル楽曲のランキング企画が目玉になっているということだ。初投稿から2年以内のクリエイター限定の「ルーキーランキング」も注目を集めている。昨今では、中学生や高校生のボカロPが増えている。このイベントが「新世代の才能の登竜門」として機能することで、若い世代のクリエイターが切磋琢磨する場が生まれた。 ボカロシーンのトレンドがネットカルチャーを超えて話題となることも少なくない。たとえば、23年に放送された日清食品「カップヌードル シーフードヌードル」がボカロP・ゆこぴの楽曲「強風オールバック」とコラボレートしたテレビCMは、CM総合研究所が発表する23年のCM好感度ランキングで年間1位に輝いた。大きな反響を集めた昨年のCMに続いて、今年7月には新シリーズも公開されている。 たくさんのクリエイターに支えられたムーブメントであるからこそ、初音ミクは一時のブームには終わらなかった。次世代の作り手が続々と登場し、ファンも低年齢層へと広がり、いまやシーンの裾野は海外にも拡大した。日本独自の音楽カルチャーとして定着したボカロシーンから、この先も数々の才能あふれるアーティストが輩出されていくはずだ。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月18日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 柴 那典(しば・とものり) 音楽ジャーナリスト 1976年生まれ。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、ウェブ、モバイルなど各方面にて編集とライティングを手がける。『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『平成のヒット曲』(新潮新書)など著書多数。ブログ「日々の音色とことば」Twitter:@shiba710 ----------
音楽ジャーナリスト 柴 那典 写真=©CFM/©SEGA