米津玄師、YOASOBI、Adoも心酔…電子の歌姫「16歳・初音ミク」が”世界を変えた"と言われる3つの理由
■Adoが国立競技場で語った「歌い手」への愛 YOASOBIもボカロシーン発のアーティストだ。19年12月にリリースしたデビュー曲「夜に駆ける」で世を席巻し、23年4月にリリースした「アイドル」はBillboard JAPANの年間ソングチャートなど各種ランキングを総なめに。同曲は、23年を代表するヒットソングとなった。 YOASOBIは今年夏にはアメリカ・シカゴで開催されたフェス「ロラパルーザ 2024」に出演し、大きな盛り上がりを見せた。海外にもファンの多い彼らは、ボカロPとしても活動するコンポーザーのAyaseと、ボーカルのikuraによるユニット。その源流には、ボカロカルチャーがある。 シンガーのAdoもボカロカルチャーが生んだスターの一人だ。02年生まれで現在21歳のAdoは、小学生のときにニコニコ動画でボカロを知ったデジタルネイティブ世代。 ボカロ曲をカバーする「歌ってみた」動画の「歌い手」に憧れて歌唱を始め、14歳のときに自ら動画を初投稿したのがキャリアの原点だ。一世を風靡したメジャーデビュー曲の「うっせぇわ」など、その楽曲のほとんどはさまざまなボカロPが作詞作曲を手掛けている。 今年春にはアジア、アメリカ、ヨーロッパを巡る初のワールドツアーを行い、4月には東京・国立競技場にて2日で14万人以上を動員するワンマンライブを開催した。そのステージで、彼女は自分を育ててくれたボーカロイドと歌い手のカルチャーに対する感謝と愛を、滔々と語っていた。 ボカロシーン出身のアーティストやシンガーだけでなく、バーチャル・シンガーとしての初音ミク自身も世界中にファンを広げている。初音ミクは、今年4月にアメリカ最大級の音楽フェス「コーチェラ・バレー・ミュージック&アート・フェスティバル2024」に出演。生バンドを従えた3DCGライブで、現地のファンの喝采を浴びた。さらに、今年は世界ツアー「HATSUNEMIKU EXPO」が4年ぶりにリアル開催された。4~5月に行われた北米ツアーに続き、秋にはヨーロッパ、ニュージーランド&オーストラリアでツアーを予定している。 ■ボーカロイドが21世紀の音楽革命となった理由 ボカロが世界中で受け入れられている状況は、いかにして生まれたのか。なぜボーカロイドは21世紀の音楽革命となったのか。 まず理由のひとつには、音楽の新たな表現分野を開拓したということがある。ボーカロイドの登場によって、クリエイターは誰でも簡単に歌声を表現することができるようになった。それまでは、たとえ作詞作曲ができたとしても、楽曲として発表するためには自分で歌うか、誰か他のボーカリストが歌うのをレコーディングする必要があった。 しかし、ボーカロイドを用いれば、パソコンとソフトウエアで歌を制作することができる。人間では表現不可能な高速な歌いまわしやハイトーンでも、ボーカロイドなら出力できる。アマチュアの音楽家にとって表現の可能性が大きく広がり、それをきっかけに数多くのクリエイターがボカロPとして活動するようになった。 もうひとつの理由は、インターネットの普及によって音楽を発表する「場」が広がったことだ。これは初音ミクが登場した07年の時代背景が大きい。 YouTubeは05年、ニコニコ動画は06年12月にサービスを開始している。当時は著作権を巡る状況が整備されておらず、現在のようにレコード会社所属のアーティストがYouTubeに公式チャンネルを持ったり、自らの作品を公開するようなことはなかった。ユーザーが勝手に投稿した商業音楽の音源やミュージックビデオは、著作権侵害として削除されるのが通例だった。 そんな中、07年8月に初音ミクが発売された。ボカロブームは瞬く間に広まり、当時のニコニコ動画にはアマチュアのクリエイターたちがこぞってオリジナル曲を投稿した。 当初はユーモラスな「ネタ」としての楽曲も多かったが、無数の作り手がコンテンツを生み出し、パロディやオマージュを繰り返しながら、その盛り上がり自体を消費していくようなムードが生まれた。 そして、最も大きな理由は、そこに「創作の連鎖」が生まれたことだった。楽曲だけでなく、初音ミクの姿を描いたイラストの数々がインターネット上に投稿され、それを用いた動画も次々と公開された。人気の曲が生まれると、それをカバーした「歌ってみた」動画や、オリジナルの振り付けをつけてダンスする「踊ってみた」動画も投稿され、特に「歌い手」はプロの歌手とは違う領域で人気を獲得していった。 「MikuMikuDance」というフリーの3DCGソフトウエアを用いたアニメーション動画の数々も生まれた。初音ミクは、単なる音楽制作ソフトやキャラクターとしてヒットしたのではなく、アマチュアの表現がネット上で互いに呼応する、ひとつの新しい文化現象を生み出したのである。 いまでは「UGC」(User GeneratedContent、ユーザー生成コンテンツ)という言葉が当たり前に用いられている。TikTokでダンス動画のブームが世界中に広まったYOASOBIの「アイドル」など、ヒット曲が生まれる要因としてUGCは欠かせないものになっている。 音楽のみならず、ユーザーが自発的にトレンドを生み出すUGCは企業にとってもマーケティングの大きなツールになっている。まさにその源流となったのが、00年代後半に初音ミクが巻き起こしたムーブメントだった。 初音ミクがヒットした後のクリプトンの動きにも先見の明があった。07年12月、初音ミク発売の約3カ月後に、クリプトンはコンテンツ投稿サイトの「ピアプロ」を開設し、「キャラクター利用のガイドライン」を発表している。 これによって、「非営利で対価を伴わない」「公序良俗に反しない」「他者の権利を侵害しない」などの条件を満たすものについては、手続きなしでキャラクターの利用が可能になった。 二次創作を制限したり、黙認するのではなく、クリエイター同士がマッチングする場所を提供した。創作の連鎖を促進するような施策を打ったことが、ボカロブーム拡大の大きな礎となった。 そのブームが最も盛況になったのが、2010年代初頭。特に広く知れ渡ったのが、11年に黒うさPが作詞・作曲・編曲した「千本桜」だ。ネット上のコミュニティを超えて広まったこの曲は、カラオケの年間総合ランキングでAKB48などに並んでトップ3に入った。小林幸子氏の歌唱によって紅白歌合戦で披露されるなど、国民的なヒット曲のひとつになった。