中国の「文化安全保障」のため選ばれ、廃棄された韓流(1)
エコノミーインサイト_ Economy insight
中国で7年以上維持されてきた韓流制限令(限韓令)は果たして解除されるだろうか。2024年11月、中国が韓国をビザなし入国対象国に指定し、韓中の文化・観光担当閣僚がコンテンツ交流案を協議するなど、和解の流れが広がっていることで、限韓令解除への期待が高まっている。景気低迷に陥っている中国が、外国人観光客の誘致で景気活性化を模索し、第2次トランプ政権時代の友好国の確保に向けて取った措置だ。理由はともかく、韓中関係が改善すれば、限韓令の壁が低くなる可能性が高い。 中国は2016年7月、韓国の高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備に反発し、限韓令を始めた。限韓令は中国内で韓国企業が制作したコンテンツや韓国芸能人が出演する広告などの送出を禁止するもの。限韓令が敷かれたことで、中国での韓流産業は直撃を受けた。韓中合作ドラマの韓国主人公俳優が突然降板され、中国俳優に代わり、ほとんどの韓国ドラマが放送審議を通らなかった。現在までも韓国の歌手たちの大規模な公演は再開されていない状態だ。 かつて、韓流産業で最も重要な市場は日本だった。しかし、2000年代に入ってから中国市場が成長するとともに、韓流の最大市場が中国へと変わった。中国は著作権法が不十分で、収益性は高くなかったが、市場規模が巨大で潜在力が高かった。中国現地での反応も熱く、中国市場を抜きにして韓流産業を語ることは難しいほどだった。むしろ過度に中国市場だけに頼って事業を展開するのは危険だという懸念の声があがるほどだった。 ■中国が「限韓令」を選んだ理由 特に限韓令直前の2014~2016年頃には、中国資本の韓国文化産業への投資も大きく増えていた。中国の経済成長でエンターテインメント市場が大きく成長し、韓国をベンチマーキングの対象にしたためだった。韓国も中国企業との合弁などに積極的に乗り出した。中国で外国企業が独自に進出して収益を得るのは困難が多かったためだ。中国は韓国の有名ドラマ作家、プロデューサー、制作者、スタッフ、俳優を良い条件で誘致し、彼らの能力を中国の文化産業に移植させることに取り組んだ。このような現象があまりにも急速に進み、韓国文化産業にチャイナマネーが溢れ込む悪効果を懸念する報道が相次ぐほどだった。 このように韓国文化産業に関心が高かった中国が、限韓令という文化的制裁を選んだのは、様々な考慮事項を反映した結果だった。まず、文化産業の領域は国際貿易で例外条項と認められる分野であり、紛争の素地が少ない点が大きかった。文化産業は、中国の世界貿易機関(WTO)への加盟や韓中自由貿易協定(FTA)でも開放されずに残っている分野だ。韓国が過去、米国がスクリーンクォーターの縮小を要請した時にも主張したように、文化産業市場は自国が保護できる例外的な領域だ。政府が門戸を開くかどうかを決める余地があるわけだ。中国としては、国際社会の視線を意識しなければならない負担がなく、韓国に打撃を与えられる分野を探したのだ。 もし他の分野をターゲットにしたとすれば、中国の産業への被害に転移するという懸念もあった。韓国と中国は国際分業で緊密に結びついており、下手に制裁を加えた場合、両国の産業がいずれも被害を受ける恐れがある。韓国が制裁で報復に乗り出すと、中国の被害も大きくなる。国際貿易体制で自国の経済的被害を避けながら制裁だけを加える分野はそう多くない。一方、文化産業に対して制裁を加えた場合、中国の経済的被害はそれほど大きくないが、韓流を代表商品に掲げた韓国には大きな打撃を与えることができる。中国はこのようなすべての点を考慮した可能性が高い。 さらに根本的には、中国の対外文化政策の延長線で「韓流」が選ばれ、廃棄されたことが限韓令という分析もある。韓流は多様な魅力で中国人の心を虜にし、中国市場で広く拡散した。だが、中国政府が「文化安全保障」という観点から韓流を選び、受け入れを許可したことも認めなければならない。中国政府は文化安保の側面から、西欧文化の拡散を防ぐ「ワクチン」として韓流をみなしていたのだ。 中国で「文化安全保障」という概念が重要になったのは1992年に社会主義市場経済を導入してからだ。改革開放が推進され、中国人民は経済的成長と社会・文化的変化も共に経験し、この過程で大衆文化に対する関心も高まった。米国中心の西欧大衆文化も中国内に急激に広がった。西欧文化は、中国社会を支えてきた社会主義文化と伝統倫理の影響力を低下させる恐れがあり、中国政府にとっては厄介な存在だった。 (2に続く) キム・ユンジ|韓国輸出入銀行海外経済研究所首席研究員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )