コロナ後の東京で開花したBar文化のルネサンス
渋谷のカフェ&バー「æ(アッシュ)」もまったくの新基軸で面白い。海外のBarでサステナブルな取り組みが活発化していることに気づいた後閑が、「zero-waste」(廃棄物ゼロ)というコンセプトを設定し、バリスタが淹れる本格コーヒーを楽しめるカフェでありながら、上質なコーヒーの味を最大限に引き出すコーヒーカクテルも開発し提供している。内装やカップがリサイクル素材というだけでなく、ラテ作りで使いきれなかったミルクをためてアイスカプチーノに活用したり、グループ他店で使用しきれないフルーツをカクテル作りに使ったりと、グループ全体のサステナビリティ向上 を進める旗振り役も担っている。
もうひとつの台風の目、南雲主于三は混ぜる哲学「ミクソロジー」(リキュールやシロップを使わず、新鮮なフルーツなどを蒸留酒と組み合わせて自由にカクテルを作る手法)のパイオニアで、これまでにない新しいカクテルを振る舞うBarを続々とオープンさせ注目を集めている。2006年に渡英しヨーロッパを巡った南雲は、帰国後、「魂の共有」の意味を込めたスピリッツ&シェアリング社を設立。遠心分離機や減圧蒸留器など珍しい機器をBarに導入して注目された。南雲によるミクソロジーは最新技術を使う実験的カクテルも多いが、どこか詩的さも感じさせる。日本を感じるお茶や焼酎のカクテルでも定評を得ていた。 2020年、南雲にとってコロナ禍は大きな痛手となった。新店舗のオープン直後から自主休業というつらい決断を余儀なくされたのだ。しかし南雲は、日本のBarビジネスを守るべく助成金や給付金などの情報をソーシャルメディアで発信したり、国税庁が酒類のテイクアウトを許してもカクテルが対象外とされたことから、お酒を楽しむ文化を守るべく自宅で誰でもおいしいカクテルが作れるキットを開発し提供したりと奔走を続けた。 コロナ禍が落ち着き始めると初の海外店舗のオープン、クラフトジンの開発、セレクトリカーショップの開業、他社の施設向けのコンサルティングやメニュー開発など八面六臂の活躍を見せる。そんな南雲が手がけたBarとしてコンセプトが面白いのは、日比谷OKUROJIに開業した2店舗だろう。「FOLKLORE」は"カクテル文化がもし日本で発祥したら" という設定で日本酒、お茶、焼酎、国産スピリッツのカクテルを和の雰囲気で提供する。 「Mixology Heritage」は、南雲の会社で技術統括部長も務めているクラシックカクテルのレジェンドバーテンダー、伊藤学がコンセプトづくりを任されたBarだ。これまで南雲は新しいカクテルを追求してきたが、同店はあえて伝統的なカクテルを中心に据えている。現在はバーテンダー教育にも勤しむ伊藤らが、日本の伝説のバーテンダーが生み出したカクテルを再現して提供したり、数十年の時を経たヴィンテージボトルをブレンドして作ったカクテルの魅力を世界から集まった客に伝える、まさにBar文化継承の店舗となっている。Barは余裕をもった大人たちの社交場。知的好奇心をくすぐるBarで味わう特別な時間は、日々の生活のよいスパイスとなるはずだ。 BY NOBUYUKI HAYASHI