コロナ後の東京で開花したBar文化のルネサンス
意外かもしれないが、コロナ禍を経て東京には世界的に見ても面白いBarが一気に増えている。台風の目となっているのは後閑信吾と南雲主于三という二人のバーテンダーだ。彼らが手がける、ストーリーのあるBarの魅力を探る。 【写真】注目のバー「Mixology Heritage」
コロナ禍を経て、東京に新たな酒文化が広がりつつある。知的好奇心をくすぐるテーマや、ストーリー性を感じさせるコンセプトとともにお酒を楽しめる新時代のBar文化が花開きつつあるのだ。 Bar文化復興の中心にいるのはバーテンダーであり経営者でもある後閑信吾(ごかん・しんご)と南雲主于三(なぐも・しゅうぞう)という二人の人物だ。いずれもコロナ禍前から、人々が隠れてお酒を飲んでいた禁酒法時代を思わせるスピークイージースタイルと呼ばれるBarなどを展開し人気を博していたが、現在も国内外で次々と個性豊かな新店舗をオープンし話題をつくり続けている。 SG Group(SG マネジメント社)を率いる後閑は2006年に渡米。ニューヨークでバーテンダーとして大成し、数々の賞を受賞。上海で2 軒のBarを立ち上げたのち、2018年、待望されていた日本での店舗「The SG Club」を渋谷にオープン。"SG" は彼自身のイニシャルでもあるが、ちびちび味わう「Sip」とごくごく飲む「Guzzle」の意味もある。実際、同店には地上と地下にそれぞれの飲み方に合わせた二つのBarが用意されている。さらに「Samurai & Gang」の意味も重ねている。実はこの店には、"19世紀に渡米した侍たちが、米国のスピークイージーのBar文化を日本に持ち帰った" という架空の設定があり、店内にはそれを思わせる浮世絵風絵画などが飾られ異国情緒あふれる世界観を呈している。外でお酒を飲むことが批判されたコロナ禍には、それが禁酒法時代のようだと、かえって大きな盛り上がりを見せた。 テーマ性をもった各店舗は上海や沖縄でも成功しているが、都内の4 店舗はいずれも渋谷で展開していた。しかしこの5月、レストランバー形態の「The SG Tavern」で丸の内エリアに進出し新たな顧客層の開拓に挑戦。この新店舗もテーマ設定が斬新で、"幕末期に日本の未来を切り開こうと英国 に渡った若き薩摩の藩士たちが現地で触れたであろう食や酒場の文化をもとに、帰国後に開いたタバーン(酒場)" というものだ。渡米して「カリフォルニアのワイン王」と呼ばれた実在の薩摩藩士のストーリーなども絡めたハイブローな世界観を提示している。