母子心中の危険性まで…「マタニティブルー」とはまったく違う「産後うつ」の危険な実態
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
マタニティブルーと産後うつ
生まれた赤ん坊だけでなく、産んだ母親にも精神の健康を害する問題があります。 マタニティブルーはそのひとつで、妊娠中にもありますが、多くは出産後数日から二週間前後に起こります。 赤ちゃんが生まれて嬉しいはずなのに、抑うつ気分や不安、不眠、イライラしたり急に泣きたくなったり、自己嫌悪に陥ったりします。原因は出産という大事業をやり終えたあとの気持ちの不安定さや、育児がはじまることへの不安、急激な女性ホルモンの低下などが考えられます。 マタニティブルーは出産後の女性の三○から五○パーセントが経験するといわれ、決して珍しいものではありません。なりやすい女性の特徴としては、まじめな人や責任感の強い人、育児に不安がある人、月経前後に不安定になったことがある人などがあげられます。 マタニティブルーはだいたい三日から十日前後で自然に軽快しますから、特別な治療は必要ありません。 一方、産後うつはマタニティブルーと症状は似ていますが、マタニティブルーより重い抑うつ状態で、悲嘆や興味の消失などが数週間から数ヵ月ほども続く状態で、放っておくと育児を放棄したり、赤ちゃんを虐待したり、希死念慮が起こって母子心中の危険性もあるので、専門家の治療が必要です。 子育ては一人目にかぎらず、二人目でも三人目でも、それぞれに不安があるものです。父親の理解と協力が欠かせませんが、それ以外の関わりも重要です。祖父母が同居していたり、近くに住んでいたりすると有利ですが、核家族が主流の現在では、祖父母の力を借りにくい家庭も少なくないでしょう。 育児書やネットの情報も有効ですが、問題が起きてから調べると、バランスを欠いた知識になりやすいので、あらかじめ予備知識として活用するのがいいと思われます。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)