「ほぼ日手帳」好かれる理由 ユーザー目線でNo.1に 「ほぼ日手帳」(上)
ユーザー目線で使い勝手を深掘り
「私たちが手帳作りのアマチュアだったことは、かえってプラスに働いたかもしれない」と、小泉氏は思い返す。「書き込み>スケジュール管理」のコンセプトを貫けたのは、手帳業界の常識にとらわれなかったからだ。 だが、単なる素人だったわけではない。サイトを通じて得られる読み手・ユーザーの声に素直に耳を傾けた。既存の手帳が「手帳とはスケジュールを賢く管理する道具」という機能面を当たり前のように押し出していたのに対して、「本当に欲しい、使いたい物」を、読み手・ユーザーの声を頼りに見詰め直した。 開発に先立って、既存の手帳を研究しなかったわけではない。「文房具店を巡って既に売られている手帳を見比べた」(小泉氏)。しかし、そうした開発チームの動きを見て、糸井氏は言った。「そういうところに答はないよ」。糸井氏が好んだ書き込み式の手帳を軸に据える覚悟が定まった。 「書き込む」が主な使い方と決まれば、その用途にふさわしい紙質やこしらえが必要になる。だから、「ほぼ日手帳」は机に置いたとき、書き込みやすくパタンとフラットに開く。大半の手帳も置けば開くが、ほぼ日手帳は180度しっかり開く造本だから、手で押さえる手間いらず。書き込みたい気分を邪魔しない。 きれいに開いて、そのままの状態を保つよう、「糸かがり製本」という技術を使っている。この技術は気づきにくいかもしれないが、圧倒的な使い勝手の良さにつながっている。ページの隅を丸めてあるのは、持ち運んでいるうちにぶつかって、角が傷んでしまうのを防ぐ狙いから。こうした細かい心配りも魅力の一つだ。 基本は1日1ページ。スペースにゆとりがあるから、好きな位置に書き込みやすい。目印になる3.7ミリメートル四方の方眼を切ってあるのも、自在のレイアウトを助ける。「使う人にできるだけ自由度を委ねたい」(小泉氏)という設計思想は当初から変わっていない。 使い心地はコストに跳ね返る。当初から採用してきた、薄くて軽い手帳用紙の「トモエリバー」をはじめ、フラット造本や方眼印刷などはコスト要因となる。 一般的には売価から逆算して仕様を決めることが少なくない。しかし、ほぼ日手帳の立ち上げチームは「いい物を作るのに必要な原価を積み上げて、最後に売価を決めた。無邪気だった」(小泉氏)。手帳商売の専門家ではなかったチームは価格の相場にも引きずられなかった。当初のもうけはそう大きくなかったという。 サイト運営から始まった企業だけに、「自分たちはメディアであり、手帳もコンテンツのつもり」(小泉氏)という意識は、ほぼ日手帳と既存手帳との違いを際立たせている。例えば、手帳の欄外風スペースに1日1フレーズずつが印刷されている「日々の言葉」。「ほぼ日」サイトに掲載された記事からよりすぐったフレーズが添えられている。 手帳本体とカバーを分離した構造も当初から変わらない。多彩なバリエーションが用意されていて、自分好みの手帳を持ち歩ける楽しさを味わえる。2024年9月1日に売り出した「ほぼ日手帳2025」は手帳と文具を合わせて350以上の新作アイテムを用意した。桁外れの選択肢はもはや購入者を悩ましくさせるほど。「3日も売り場に足を運んで『まだ決めきれない』と考え込むお客様もいる」(小泉氏)という。