もう、後悔しても仕方ないからーーギャラ交渉も自分で、東出昌大35歳の今 #ニュースその後
「パンも」と、6枚切りの食パンをストーブの網にのせ、手早く焼いて渡された。立ったまま食べる。おいしい、と感想を伝えると、東出は嬉しそうに笑った。 「どうぞ、ぜひおかわりもなさってください」 肉を保存するための冷凍庫はあるが、冷蔵庫は持っていない。その他の電化製品にも、極力頼らないようにしている。愛車は山道でボコボコになった、満身創痍の中古プリウスだ。 「世の中にあるものって、本当に必要かな? 東京にいるときから、そう思っていました。忙しくして、お金を手に入れて、いい車に乗ってみようと思ったこともあるけど、それが楽しいわけでもなかった。いつか暇になったら飲もうとウイスキーばかり集めて。キャンプグッズに凝ったこともあるんですけど、身一つでやっているこっちの先輩たちを目の当たりにしたら、そのカッコよさにしびれた。なるべく自力で、いけるところまでいきたいなと」
幸せって答えちゃいけないんじゃないかと思っていた
山に引っ越したのは、「導かれたから」とか、「自分を見つめ直したかったから」といった理由ではない。バッシングの中、本名で生活をしていた東出に家を貸すという不動産屋は、東京にはなかった。 「よかったと今は思います。たくさんの人に迷惑もかけたけど、退所が決まって、引っ越して、もうひとりだ、と思ったら、肩の力が抜けました。のたれ死んでもいいやって、僕の狭い範囲の、限界までは考えた。山に入って、飯食って、排泄して寝る。それだけで何か、癒やされるものがあった。こっちの先輩たちに言われたんです。『人生いろいろあるだへ』。いろいろあるけど、大丈夫だ、って。その言葉に救われました」 人から見れば、やはり稀有な人生だ。整った容姿。ブレークするのも早かった。人気絶頂での結婚、不倫、離婚。山に入っても、俳優として求められ続ける。
「僕はあまりスピリチュアルなことは信じない。占いにも興味がないし。特別な星の下に、とかね、よく言われるけど、銀河だって、まだ観測しきれていない、特別な星も何もないと思うんですよ。でも、猟で山に入っていると、人間が忘れた感覚というものがある、とは思います。だからそう、動物と地続きでいるということは信じている。死の淵で、いい人生だったなと思えるかどうか、それだけのこと。特別な人生なんてないなって、いつも思いますね」 いま、幸せですか? そう尋ねると、東出は少し黙ってから、まっすぐに答えた。