マニアのルーツは高校時代の工房通い 転戦中の長電話/星野陸也のギア語り<後編>
昔の体積が小さいヘッドは、重心位置がシャフトの軸線上に近く(重心距離が短い)、ボールを遠くに飛ばすためには、シャフト軸を中心にインパクト前後でフェースを大きく開閉させることでスピード(出力)を上げるのが定説だった。しかし、「大型化したヘッドは重心距離が長くなるため、小さいヘッドと同じように手で運動させると、フェースの向きが安定しない」。大型ヘッドの場合、重心距離が短いとフェースの開閉がより大きくなり、扱いが難しい。シャフトの軸線から重心位置を遠ざける必要がある。 「重心が昔とはまったく“逆”。たくさんの人が『重心距離をトウ側に長くして真っすぐ飛ばすなんてありえない』と思っていた。昔、ゴルファーは胸筋を大きくしてはいけないと言われたのは、腕と手首を返すときに邪魔だから。でも今の理論ではインパクトゾーンで手首を(極力)返さないようにして、体全体を回転させたり、ジャンプする動きに変わった。自分も古いタイプのスイングだったから、大きいヘッドのドライバーが打ちにくかったんです」 当時まだ日本でプレーしていた星野は、クラブについて思うことがあるたびに中村氏に電話をかけ、1時間、2時間と会話を重ねた。「思いついたことがあったらすぐに話したくて」(笑)。長電話の要点は開発者にも伝わり、貴重な意見として聞き入れられている。
「誰だ、お前?」
「最近は時差もちょっと考慮してくれるようになりました」と中村氏は笑う。星野との電話は主戦場を海外に移した昨年以降も続いている。毎週、プレーする国が違う欧州ツアーは日本とは環境が異なり、すべての試合でメーカーのスタッフや、工房を兼ね備えた大型バスが待機してくれるわけではない。 そんな時もクラブ調整に必死な星野は、各大会であらゆるギア担当者を訪ね、遠慮なしにオーダーを繰り返した。「最初は『誰だ、お前?』みたいな扱い。クラブを渡すと『仕方ないからやってやる』って感じで。でも、例えばパターでも海外の調整は(ロフト角やライ角が)0.5度刻みしかないんです。機械でデジタルで処理されるから…」。 星野がお願いしたかったのはもっと細かいカスタム。「0.3度、曲げてほしい」と伝えたら、しかめっ面で「0.3だけ? 変わんないよ、それ」とパターを突き返された。だが、それで怯むわけにはいかない。なぜなら、プロだから。 「『そうですよね、0.3じゃ変わんないですよね。でも、やってください』って、お願いし続けました。今ではもう納得して、調整してくれるようになりましたよ。“ゼロ・ポイント・スリー、レス・ロフト”(ロフト角を0.3度少なくして)って感じで」 2年の欧州での旅を経て、星野は2025年1月、PGAツアーに向かう。信頼するツアーレップとの電話は今度、太平洋をまたぐ。