マニアのルーツは高校時代の工房通い 転戦中の長電話/星野陸也のギア語り<後編>
ドライバーは“骨折スリーブ”で始まった
このオフ、ダンロップの新モデル「ZXiシリーズ」のウッドをテストしている。ナーバスなシーズンを終えてようやく本格的に打ち込みを開始。ところで星野はプロ入りして間もない頃、ドライバーにも独自のカスタムを施していた。その名も「骨折スリーブ」という。 シャフトはヘッドとの結合部分であるホーゼルに、基本的には真っすぐ挿入される。しかしゴルファーによっては、構えたときの見た目や機能面を重視して、わずかに角度を付けて入れることを好む。ホーゼルのわずかな隙間を利用してアップライトにしたり、フラットにしたりするクラフトマンの技だ。 星野の場合は1度アップライトにした上で、右から入れるのが定番だった。その角度が尋常ではなく、ネック側からヘッドを見ると、シャフトとホーゼルが作る線が真っすぐではなく、激しく「く」の字型を描いた。 「クラブが折れているみたいに見えるから、中村さん(ダンロップのクラブ担当・中村俊亮氏)が”骨折スリーブ”だって(笑)」。そんな異形にも理由がある。「フェースの向き(見た目)の問題なんです」 ウッドのヘッドは年々サイズが大きくなり、星野の場合、その度にアドレス時のボール位置が飛球線方向(左側)に寄っていった。両手のポジションは変わらないから、「小さいヘッドのドライバーと同じ感覚で構えたら必然的にフェースは左を向く」。それを解消したのがシャフトの入れ方に角度をつける工夫。ホーゼルのわずかな隙間を無理やり広げて、より斜めから挿入したという。 強いこだわりには星野のプロゴルファーとしてのプライドがにじむ。「プレッシャーがかかっていない時は、球は真っすぐ飛ぶ。でもいざ緊張した時に、『あれ、左に向いてるな』と急に気になってしまう。これはマズイと思って。プロとして。プレッシャーがかかると頭も体も繊細になるんです」
メーカーへの貢献
クラブ調整にこれほどの強い熱意を持つ星野だからこそ、契約メーカー側の期待も大きい。好成績を出すことによるブランドPRへの貢献はもちろん、用具へのフィードバックを残すこともツアープロとしての重要な役割だ。 ウェッジへの微細なカスタムや“骨折スリーブ”を経て、星野の嗜好はメーカーにとっての財産になった。振り返れば、スリクソンは2010年代の中盤、ドライバーづくりに試行錯誤を繰り返した。特に世界トップレベルで使用選手が少なく、松山英樹が他メーカーのドライバーを握っていたのもその象徴。星野も当時のドライバーに”違和感”を覚えていたプロのひとりで、「クラブとスイング、ちょうどいろんな進化の過程にあった」と当時を振り返る。