トー横界隈は助け合いの場?…起業の夢を抱く17歳高校生が新宿歌舞伎町に通うワケ【Z世代ネオホームレスの実態】
たまたま場所がトー横だっただけ?
僕はモカさんへの取材を通じて、トー横界隈について「精神的に追い詰められた人たちが、死に場所を探し回った挙げ句にたどり着く場所」という印象を持っていた。未来に希望を感じられず、この瞬間を刹那的に生きているような、そんなイメージだ。 しかし、目の前にいるユイト君には起業という将来の夢があり、その仲間をトー横で集めるという目的意識もあった。ここに来たら普段なら出会えないような人と知り合いになれて、コネや人脈ができる。 そういう意味では、サラリーマンが異業種交流会に参加して名刺交換することと、ユイト君がトー横界隈に通い続けることは、大きく違わないとも思える。 将来への建設的な考えをしっかり持っているユイト君を見ていると、「彼ならトー横でなくてもうまく生きていけるのではないか」という思いが僕の頭をよぎる。社会に出て、赤い髪を黒く染め、スーツとネクタイを身につけて名刺交換をしている、そんなユイト君の姿を想像するのは難しいことではなかった。 それに正直なところ、モカさんのような「ここにしか居場所がない」という切実な雰囲気をユイト君には感じなかった。アルバイトで稼いだお金でトー横に遊びに来ている高校生、という印象の方が強い。 家に一人でいるよりも友達といっしょに遊ぶ方が楽しい。トー横に行けば友達に会える。たまたま場所がトー横だっただけで、ゲームセンターで友達とつるむ普通の高校生と大きくは違わないように僕には見えた。 僕はユイト君の話を聴いて、トー横キッズのことがますます分からなくなった。トー横キッズとは、いったいなんなのか。
トー横キッズの実態
ユイト君によると、トー横キッズの中に100人以上が所属するLINEグループが取材当時には4つほどあり、派閥のような形で分かれているという。彼らの多くは家庭に何かしらの問題を抱えている未成年、ということだったが、その中には昼は会社で働いて夜になるとトー横に集まるサラリーマンや、40代のホームレスもいるそうだ。 世代や仕事を超えた繫がりは、起業のための仲間を探す意味でも、ユイト君の目には魅力的に映るだろう。彼はトー横を「助け合いの場」と表現した。お金のない未成年が多いため、ネットカフェやホテルに泊まる時は、みんなで費用を出し合ったりお金のある人が多めに払ったりする。 そういう互助的な側面がある一方で、中には武闘派と呼ばれる人々もいて、小競り合いが発生すると殴り合いか、土下座か、あるいはお金で解決するケースが多いという。そういう揉め事があったとしても、ユイト君はトー横という場所について「誰でも受け入れてくれる温かさがある」と話した。 また、さまざまなメディアでも取り上げられてきたように、トー横キッズの間では未成年による飲酒や喫煙も当然のように行われているという。それだけでなく、OD(オーバードーズ)と呼ばれる、薬局で購入した一般的な風邪薬を酒といっしょに大量摂取してトリップする行為もある。 これは命を落としかねない危険行為だ。ユイト君自身は、そういった危険行為に身を委ねるのではなく、音楽を聴いたり踊ったりしてトー横での時間を楽しんでいる。この界隈にはスピーカーを肩に担いでいる人がいて、ヒップホップなどお気に入りの音楽を流してくれるのだという。 青柳 貴哉 ※本記事は『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
青柳 貴哉