この夏のヒアリ対策 上陸を徹底阻止し、万一の定着にも備える
そこで、もし巣が見つかった場合は、第一にヒアリの行動範囲をモニタリングで把握し、巣の規模を推定し、その周辺数百メートル~数キロメートルの範囲で防除区を設定します。そしてそのエリア内の土砂や資材の持ち出しを制限し、ベイト剤による包囲網をつくります。この際、早く効く薬より、ゆっくりと効果が出る薬を主成分にすることが望ましいと考えられます。働きアリが運んでいる間は効果が出なくて巣内に持ち込まれてから効果が出るほうが、最終標的となる幼虫や女王アリに薬剤が確実に届くからです。 アリは社会性昆虫ですから、表面を歩く働きアリを防除しても巣全体のダメージは小さく、巣内で働きアリや次の女王を生産している女王アリと、その子供達である幼虫に薬剤を暴露して巣の再生産を停止させることが根絶の決め手となります。
この防除戦略の場合、必然的に効果が出るまで長期戦になります。東京都のアルゼンチンアリ集団の防除でも3年以上の時間を要しました。慌てず、騒がず、静かにやっつける、サイレント・キラー作戦をとることが野生化したヒアリ防除の肝であると、我々は考えています。 ちなみに現在では、オーストラリアをはじめ、世界各国のヒアリ侵入地域でも、ベイト剤を有効に使用する計画的防除戦略が開始されており、今後の防除効果が注目されます。
早期防除のための早期発見の重要性
ベイト剤を使って、巣を防除する場合でも、巣が小さいほど防除効率は高く、時間もコストも低減できます。がん治療において早期発見が重要であることと同様に、ヒアリの巣も早期に発見することが、防除成功のキーポイントとなります。 しかも、ヒアリの野生化は港で起こるとは限らず、むしろ内陸の農地や公園、空き地などの環境の方がヒアリにとって営巣に好ましく、国内の思いもよらないところで、ある日突然、巣が見つかるという事態を想定しておく必要があります。 従って、野生化というステージの監視(モニタリング)は国内の広い範囲で行われる必要があり、まさに全国の自治体レベル・市民レベルでの調査・観察が求められます。 しかし、外で歩いているアリを肉眼で観察して、その種を見分けることは、専門家でも難しく、多くの一般市民にとって、ヒアリも日本のアリも見た目は同じ「ありんこ」に過ぎないと思われます。見分けがつかないために、アリさえ見ればヒアリではないかと疑い、心配するあまり慌てて殺虫剤を過剰に散布し日本のアリを「虐殺」してしまったのでは外来種防除どころか、生態系の撹乱にもつながりかねません。 これまでの調査では、アルコール標本などを専門家に送付して、形態の顕微鏡観察に基づき同定する以外に、ヒアリの存在を確認する方法がありませんでした。この方法では、ヒアリの送付から同定までに数日を要するため、今後より広範に監視(モニタリング)を行うためには、より早期に、かつ簡易にヒアリを確認する手法が必要とされます。