この夏のヒアリ対策 上陸を徹底阻止し、万一の定着にも備える
万一営巣が確認された場合の対応策
港湾における水際対策を強化しても、毎日万単位で輸入される貨物すべてのヒアリ持ち込みリスクをゼロにすることは難しいと思われます。ヒアリが監視の目をかいくぐってコンテナごと内陸部に持ち込まれ、たまたま好適な環境にたどり着くことができて、営巣に成功するという最悪のシナリオも想定して対策を準備しておく必要があります。 野生の巣の防除についてはすでに本種が分布拡大している米国、オーストラリア、台湾および中国で実践されていることから、我々も、その防除データを収集し、分析を行っています。これらの国々では、短期的に巣を壊滅させることに成功しても長期的にはその分布拡大の抑制に失敗しているケースが多いことから、これらの国々で行われてきた防除手法をそのまま取り入れることは防除の失敗を招く恐れがあると考え、まず冷静に成功・失敗の要因分析を進める必要があります。 これらの国でこれまでに防除に使われてきた薬剤を分析すると、日本でも使用実績のあるベイト剤のほかに成虫に素早く強く効く、速効性の合成ピレスロイド剤も含まれていることがわかりました。実は、この速効性殺虫剤の使用がかえってヒアリを拡散させてしまったのではないかと我々は推定しています。 ヒアリやアルゼンチンアリなどの侵略性の強い外来アリ類の特徴として、その巣の移動能力があります。国内では我々研究チームは東京都のアルゼンチンアリ集団に対して薬剤防除を進め、根絶させることに成功しましたが、その際、注意したのが、巣を見つけたときにむやみに撹乱しないということでした。巣があるからといって慌てて巣を掘り返したり、薬をかけたりすると、女王が働きアリを引き連れて一目散に逃げ出し、女王を見つけることが難しくなってしまうのです。女王を逃してしまうと、新しい地点で巣を再生することを許してしまう事になります。 ヒアリの女王も非常に逃げ足が速いことが観察されていることから、巣の表面にいる働きアリをピレスロイド剤で殺虫するなど、撹乱を起こすと、危険を察知した女王が地下トンネルを通じて巣から逃げ出し、新天地で営巣するという巣の拡散が繰り返されるリスクが想定されます。 実際に中国の防除現場を視察に行った際、現地の防除担当者たちが巨大なアリ塚を見つけたら、そこにざっくりとスコップを差し込んでアリ塚を破壊して、パニック状態で溢れかえる働きアリ集団にピレスロイド剤を散布するという現場を目の当たりにして、これだけの撹乱行為を行えば、巣の奥にいる個体たちは大慌てで地下ルートを通じて逃げ出してしまうだろうと容易に想像できました。 ヒアリの巣が見つかり、そこから働きアリが行列をなして出入りしているのを見れば、すぐにでもその場に蠢(うごめ)くアリたちを抹殺したくなるのが人情と思われますが、実際に巣が見つかった場合は、防除の前にまず、地下に張り巡らされている巣の規模を把握することが大事です。ヒアリの巣は地下に深く、広く作られ、さらに巣と巣が連結したスーパーコロニーも形成します。表面に見えている巣穴やアリ塚は氷山の一角と考えるべきなのです。